女性労働に関する 専門家判例コラム
第13回 妊娠・出産等に係る女性の勤務態度等 君嶋 護男
女性労働者が妊娠や出産した場合には、母性の保護、子供の健全な成長を図る等の観点から、労働基準法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法等において、様々な女性労働者保護対策が講じられているところです。このことは、母性保護等の観点から当然のことですが、一方、女性側にも、そうした保護を受ける立場として、適切な対応が求められるといえます。
妊娠中の女性が、周囲の同僚らに対し、傍若無人の態度を示し、最終的に解雇された事件があります(N社(地位確認等請求)事件 東京地裁平成28年3月22日判決、東京高裁平成28年11月24日判決)。この事件は、鞄の製造を業とするN社(被告)の営業部門で勤務する妊娠中の女性従業員A(原告)が、検品部門の部長に対し「納期までに完納できなかったらどう責任を取るのか」などと怒鳴ったり、パート従業員らに対し「あんたのような仕事ができない人は相手にしない」などと怒鳴りつけたりして1人を退職に追い込み、社長からの再三の警告にもかかわらず罵詈雑言を浴びせ続けたことから、事業遂行に支障を来すとして解雇されたものです。Aは、本件解雇は妊娠を理由とするもので、違法・無効であることを主張しました。
第1審では、Aの非違行為は、その事実の裏付けがないとして、解雇を無効としましたが、控訴審では、N社主張の事実を認定し、Aの態度は職場環境を悪化させ、業務に支障を及ぼすものであること、N社は従業員20数名の小規模会社であって配置転換は困難であること、本件解雇は妊娠を理由とするものではなく、そのことをN社が証明したとして、男女雇用機会均等法9条4項ただし書(解雇が妊娠、出産を理由とするものではないと証明したときは解雇は可能)により解雇を有効と判断しました。
この事件は、妊娠中の女性が解雇されたという事実関係については全く争いがなく、争点は、専ら解雇理由が、妊娠によるものか、勤務態度の劣悪さによるものかでしたが、控訴審では、Aの勤務態度が余りにもひど過ぎるとして本件解雇を有効としています。妊産婦の解雇の可否について争われた事例は数多く見られますが、妊産婦側が敗訴になった事例は極めて稀といえます。
女性労働者の勤務態度や周囲との関係の劣悪さが直接争われたものではないものの、背景にそれらの要素が見え隠れする事件として、Y病院副主任理学療法士降格事件(広島地裁平成24年2月23日判決、広島高裁平成24年7月19日、最高裁平成26年10月23日判決、広島高裁平成27年11月17日判決)が挙げられます。
この事件は、Y病院(被告)に勤務する副主任理学療法士B(原告)が第2子の妊娠により、労働基準法65条3項に基づき希望して軽易業務に転換し、副主任を免じられたこと(措置1)、その後出産して、育児休業明けに復職する際に一般職員に据え置かれたこと(措置2)が、いずれも違法無効であるとして、Y病院に対し副主任手当及び慰謝料を請求したものです。
第1審及び控訴審では、措置1はBの同意があったこと、措置2は業務の裁量権の範囲で行ったものであったことを認め、いずれもBの請求を棄却しました。これに対し上告審では、軽易業務への転換を契機とする降格措置は原則として均等法9条3項に違反するが、Y病院の措置につき、同項の目的に反しないと認められる「特段の事情」が存在するときは同項に違反しないとして、特段の理由の存否を審議するため、高裁に差し戻しました。そして、差戻後の高裁では、措置1の承諾につき自由意思に基づく合理的な理由があるとはいえないこと、措置2は、Bを一般職員に止めることが業務遂行上不可避とはいえないことを理由に、Bに対するY病院の措置を違法と認め、Bの請求を満額認める判断を示しました。
ただ、Bは、周囲の職員との関係が極めて劣悪であったようで、中には「Bが同じ職場に戻ったら退職する」という職員が2名いたこと、労働組合が、Bの降格反対についてY病院に申し入れるため、組合員に支援の署名を求めたところ、多くの職員から拒絶されたことなどがありました。こうしたことからすると、この問題が紛糾したのは、Bの周囲の職員との軋轢の強さ、Bによる配属先についての執拗な苦情等から、Y病院がBの職場復帰に当たっての配属先について非常に苦慮した事情もあったことが窺えます。
判例データベース
N社(地位確認等請求)事件「参考判例」
事件番号:東京地裁 − 平成26年(ワ)第33637号
Y病院副主任理学療法士降格事件「参考判例」
事件番号:広島地裁 − 平成22年(ワ)第2171号