女性労働に関する 専門家判例コラム

 

第15回 ベテラン女性社員が新社長より侮辱、降格、退職強要  
                   君嶋 護男

 

 会社のトップが、部下の女性社員に対し、年齢や能力をあげつらって不快な思いをさせるだけでなく、退職にまで追い込む事例が、平成の終わり頃になってもまだ発生しています(長野地裁松本支部平成29年5月17日判決、東京高裁平成29年10月18日判決)。
 医療機器の販売等を業とするX社(被告・被控訴人)の新社長Y(被告・控訴人)は、社長就任時の朝礼において、女性の係長もいるが、できないと思ったら降格してもらうと挨拶し、その後経理係長A(原告・被控訴人)に対し「人間年を取ると性格も考え方も変わらない」と述べ、「改革に抵抗する勢力は異動願を出せ」「50代は転勤願を出せ」と述べ、50代であるAを含む4人の原告ら(A,営業統括係長B、事務担当C及びD)をババア呼ばわりしました。
 YはAに対し、賞与のマイナス考課について説明した際、原告らの勤務の不十分さを指摘し、倉庫への異動を示唆したところ、原告らはいずれも退職願を提出しました。X社は、賞与について、AをD評価、BをC評価とし、賞与について、所定の算定額から、それぞれ30%及び20%を減額して支給したほか、原告らの退職後、A、B及びCには自己都合退職による退職金を支給し、Dには退職金を不支給としました。
 原告らは、Yの一連の言動がパワハラに当たると主張し、X社に対し、原告各人につき慰謝料等300万円及び会社都合退職としての退職金の支払いを請求しました。第1審では、X社及びYに対し、原告らにつき、慰謝料、賞与の減額分、差額退職金約312万円~5万5000円の支払を命じ、控訴審でも、賞与の減額査定は無効としたほか、Yによる一連の行為はパワハラに該当するとして、慰謝料、退職金差額として、285万円~89万円の支払を命じました。

 
 

ガラスの心

 この事件は、Yの女性に対する許し難いまでの言動、理不尽な降格、退職強要などが見られ、悪質なパワハラ(ババア呼ばわりなどはセクハラにも該当すると思われます)事件といえます。ただ、何故このような理不尽な言動が行われたのかといえば、Yの前任社長が派手に交際費を使ったためにX社は延滞税及び重加算税約600万円を納付させられたところ、その担当がAであったために、YはAに目を付けたものと思われます。確かに、前任社長の金の使い方にはかなり問題があったようで、その実務を担当したAにも責任の一端があるとはいえますが、トップ(前任社長)に指示され、監査法人等からの指摘もない中でAが事務処理を続けたことはやむを得ないものと思われます。また、仮にYがAについて、担当者の対応として適切さを欠いたと判断したのであれば、将来に向かって是正するよう指導するのがトップとしての役割でしょう。
 それにもかかわらず、Yは50代の女性を狙い撃ちにして退職を強要しており、こうしたことからすると、Yとしては、まず50代の女性を一掃することが元々の目的で(50代の正社員は原告ら4名のみ)、そのためにA,Bらのあら捜しをしたようにも感じられます(Yは、50代の社員は給与が高すぎ、会社にとって有用でない旨述べたことからも、50代女性社員を退職させる意向が窺えるところです)。また、そこまでの意図は必ずしもなかったとしても、就任時に、50代の女性を邪魔者扱いし、原告らをババア扱いするようなXの就任時挨拶は、特に一定の年齢以上の女性に対して非常に無礼なものであって、セクシュアルハラスメントにも該当すると言わざるを得ません。判決では「ババア発言」を特に問題視していませんが、これについても名誉毀損として独自の慰謝料を認められて然るべきものと考えられます。

 

女性困り顔

 

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