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茨城(合成樹脂簡易食品容器製造会社)配転拒否退職強要事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- 茨城(合成樹脂簡易食品容器製造会社)配転拒否退職強要事件
- 事件番号
- 水戸地裁下妻支部地裁 − 平成9年(ワ)第108号
- 当事者
- 原告 個人6名 A、B、C、D、E、F
被告 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1999年06月15日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告会社は、合成樹脂簡易食品容器の製造販売等を業とする株式会社であり、原告らは、いずれも被告会社関東工場に勤務していた者である。
被告は、平成8年10月23日、原告らを含む10名に対し、同年12月16日から本社福山工場に転勤するよう要請し、その直後から、製造部長が、単身赴任か家族同伴かの確認に回り、転勤に応じられないのであれば年内に辞めるように強く申し向けた。被告会社は、同年11月29日に至り、本件転勤についての説明会を開催し、その中で、本社工場の人員が不足していると説明したが、当面福山で必要な人員は4、5名であるとし、原告らが転勤対象者として人選された理由については一切説明しなかった。その上で、原告らが「転勤に応じられない者は自己都合退職せよ」と製造部長に言われていることは納得できないと指摘すると、「就業規則上は、転勤命令を出して14日以内に行かなければ懲戒免職である」と言明した。
同年12月5日、再度説明会が開催されたが、被告会社は同じ説明を繰り返し、「福山に行けない者は辞めてもらう」との強硬な姿勢を崩さなかったため、原告D、E、Fの3名は自己都合を理由とする退職届を提出した。一方、原告A、B、Cは、被告の説明、姿勢に納得できず、同月20日、配転効力停止等仮処分申立をしたが、被告が「転勤命令はまだ出しておらず、転勤に応じないことを理由に退職を求めたり解雇したりすることは考えていない」と答弁したため、保全の必要性を欠くとの理由で却下された。
被告会社は、平成9年3月2日、3課を合わせて1社で分社するとして、「分社移籍の意思確認」を始めたが、その意図は、生産部門は全て分社会社に業務委託する、関東工場には専門的知識を要する技術部門、総務部門が残るだけで、前年秋からの被告会社の一連の措置は、原告Aら3名に対する戦力外通告(退職強要)であると同時に、訴訟にまで及んだことに対する報復・嫌がらせであると同人らは感じた。かかる被告会社の行為に耐えかね、体調を崩すに及んだこと、第2次分社においても採用されないと思ったことから、原告A、B及びCは、同年4月ないし5月に退職の意思表示をした。原告らは、被告会社の退職強要による退職の無効を主張し、得べかりし賃金及び退職金の支払いを請求するとともに、慰謝料について、原告A、B、Cについては各200万円、原告D、E、Fについては各100万円支払うよう請求した。 - 主文
- 1 被告は原告らに対し、それぞれ別紙目録1損害額合計欄記載の金員(原告Aにつき425万5000円、原告Bにつき380万5000円、原告Cにつき335万5000円、原告Dにつき321万7000円、原告Eにつき340万8000円、原告Fにつき261万1000円)及びこれらに対する同目録退職日記載の日の翌日から支払済みまで年6分(小計欄については年5分)の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。
3 この判決は、原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 原告らの退職についての被告会社の債務不履行ないし不法行為性及び損害額
労働契約関係において、使用者は労働者に対し、労働者がその意に反して退職することがないように職場環境を整備する義務を負い、また労働者の人格権を侵害する等違法・不当な目的・態様での人事権の行使を行わない義務を負っているものと解すべきである。
分社会社は、経済的にも社会的にも独立性がなく、分社の人選漏れはイコール転勤であるところ、分社の人選は、その合理性について何らの説明がなされていないことから、手続き的にも問題があるだけでなく、福山への転勤の募集もしていないし、他の者へ当たってもいないこと、分社会社の業務に対する適性・能力という基準も、分社会社に採用された者の中に原告らと同様に仕事ができない者もいることから、合理性もない。そして、単なる「要請」である以上、転勤に応ずる義務を会社自ら設定していないにもかかわらず、また原告らは現地工場採用に係るブルーカラー労働者であって、勤務地が契約上限定されており、転居を伴う配転に応ずる義務を負っておらず、原告らは面接時において将来転勤があり得る説明を受けておらず、却って面接時に本人希望以外は転勤はないと説明を受けた原告もいることからすれば、原告らに就業規則に基づく転勤義務は存在しないというべきである。にもかかわらず、被告会社はあたかも原告らにこれに応ずる義務があるかのように申し向けて原告らを誤信せしめ、原告Dら3名をして義務なき退職届を提出する立場に追い込み、退職届の提出を拒否して転勤命令効力停止仮処分を申請した原告Aら3名に対しても、従来女子パートが担当していた日勤の業務を割り当て、管理職や他の従業員から早く辞めろとの明示、黙示のプレッシャーをかけ、あるいはかかる職場の雰囲気を放置、助長してそれらの人格、名誉を傷つけ、分社を具体化するに当たっては、雑用しかない本社管理課所属としたこと、被告会社は本件転勤の要請に先立ち、関東工場の女子正社員の希望退職の募集をし、退職金の割増を履行して、原告らとの取扱いの差別をしたこと、被告会社は、平成9年1月20日、転勤に同意できないならば、地元で労働条件も同一である関連会社の出向を斡旋したが、それはそれまでの被告会社の対応状況からいって、信頼を回復ないし払拭するものとはいえないこと、このように原告Aらもその意に反して遂に退職するに至ったことからすれば、原告らはいずれも定年まで勤務する意思であったにもかかわらず、被告会社の虚偽、強圧的な言動や執拗な退職強要・嫌がらせによって退職のやむなきに至ったというべきである。そうすると、平成8年10月以来の被告会社の原告らに対する一連の処遇は、転勤に応じないことを予測し、原告らに自己都合退職に追い込むことを意図してなされたものと推認されても仕方がないのであり、少なくとも、使用者として前記配慮義務に反するものであって、その結果として原告らが有する意に反して退職させられない権利を侵害したものであるから、債務不履行ないし不法行為を構成するものというべきである。
被告会社の前記言動や策動がなければ、原告らは被告会社に勤務を継続し得、原告らの退職と相当因果関係のある6ヶ月分の賃金が得べかりし賃金となるというべきである。また、被告会社の諸々の不当な扱いや差別・嫌がらせその他本件に現れた一切の事情を斟酌した上、別に得べかりし賃金を受けられることを考慮すると、原告らの精神的損害を慰謝するに足る金員は、原告A、B、Cについては各100万円、原告D、E、Fについては各50万円とするのが相当である。2 原告らの退職が会社都合によるものと同視できるか
原告らの各退職事情は前記のとおりであり、それは自己都合退職ではなく「人員削減その他のやむを得ない業務上の事由」と同視できるから、原告らは会社都合退職としてのA支給率による退職金請求権を有する。しかるに、原告らに対しては、自己都合退職であるとの理由によってB支給率(A支給率の半分)による退職金が支払われたないしその予定であるから、被告会社は、A支給率による退職金額と既払退職金との差額を支払うべきことになる。弁護士費用としては、原告Aにつき32万円、原告Bにつき29万円、原告Cにつき27万円、原告Dにつき23万円、原告Eにつき25万円、原告Fにつき23万円とするのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法415条、709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例763号7頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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水戸地裁下妻支部地裁−平成9年(ワ)第108号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 1999年06月15日 |
東京高裁 − 平成11年(ネ)第3834号(損害賠償等控訴) | 控訴認容・附帯控訴棄却(上告) | 2000年05月24日 |