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神戸東労基署長(G社)疾病上告事件【過労死・疾病】
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 神戸東労基署長(G社)疾病上告事件【過労死・疾病】
- 事件番号
- 最高裁 − 平成12年(行ヒ)第320号
- 当事者
- 上告人 個人1名
被上告人 神戸東労働基準監督署長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年09月07日
- 判決決定区分
- 原判決取消(控訴認容)
- 事件の概要
- 上告人(第1審原告・第2審控訴人・昭和27年生)は、昭和59年3月からG社に営業員として勤務し、海外の顧客との通信文書作成、製造業者との価格等の交渉、新製品の探索、海外代理店への指示等の業務に従事していた。
G社の所定労働時間は7時間30分で、1年間に4回程度海外出張があり、本件疾病発生前1年間の時間外労働時間は月18時間程度で、出張のない月にはほとんど時間外労働はなく、本件出張以前2ヶ月間は時間外労働、休日労働とも全くなかった。
上告人は、平成元年11月20日から24日まで国内出張を命じられ、同月26日から12月9日まで12日間、韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、香港に外国人社長らに随行して出張し、商談等に従事した(その間の1日当たり労働時間13.1時間、時間外労働62時間)が、同月7日香港に移動中、腹痛を起こし、救急車で病院に搬送され、十二指腸潰瘍の手術を受け、平成2年初めに退院した。なお、上告人は、昭和44年と55年に十二指腸潰瘍に罹患、同63年にも治療を受けたが、以後、本件疾病発症に至るまで通院せず、薬も服用していなかった。
上告人は、本件十二指腸潰瘍は業務に起因するものであるとして、被上告人(第1審被告・第2審被控訴人)に対し、労災保険法に基づく療養補償給付の支給を請求したが、被上告人が本件疾病は業務に起因することの明らかな疾病に当たらないとして不支給の決定(本件処分)をしたため、上告人は本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
第1審では、上告人のストレスが著しいものとまでは認められない上、上告人が前回の疾病後に十二指腸潰瘍の維持療法を怠っていたことからすると、私病の状態が本件疾病発症の原因との疑いを払拭することはできないから、控訴人のストレス相対的に有力な原因として本件疾病を発症させたとまでは認めることはできないとして上告人の請求を棄却した。上告人はこれを不服とし控訴したが、第2審でも第1審と同様、本件処分に違法はないとして控訴を棄却したことから、上告人はこれを不服として上告した。 - 主文
- 1 原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。
2 被上告人が上告人に対して平成2年7月19日付けでした労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付を支給しないとの処分を取り消す。
3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 - 判決要旨
- 原審は、本件各出張が上告人に著しいストレスを与えたとまでは認められない上、上告人が前回の疾病後に十二指腸潰瘍の治療を怠っていたことからすると、このことが本件疾病発症の原因ではないかと疑われ、上告人のストレスが相対的に有力な原因として本件疾病を発症させたとまでは認めることはできず、本件疾病が本件各出張中の業務上のストレスに起因する疾病であると認めることはできないと判断した。しかし、原審の上記判断は是認することができない。
上告人が本件疾病の発症以前にその基礎となり得る素因又は疾患を有していたことは否定し難いが、同基礎疾患等が他に発症因子がなくてもその自然の経過により穿孔を生ずる寸前にまで進行していたとみることは困難である。そして、本件疾病を発症するに至るまでの上告人の勤務状況は、4日間にわたって本件国内出張をした後、1日置いただけで、外国人社長と共に、有力な取引先である英国会社との取引拡大のために重要な意義を有する本件海外出張に、英国人顧客に同行し、14日間に6つの国と地域を回る過密な日程の下に、12日間にわたり、休日もなく、連日長時間の勤務を続けたというものであったから、これにより上告人には通常の勤務状況に照らして異例に強い精神的及び肉体的な負担がかかっていたものと考えられる。以上の事実関係によれば、本件各出張は、客観的にみて、特に過重な業務であったということができるところ、本件疾病について、他に確たる発症因子があったとは窺われない。そうすると、本件疾病は、上告人の有していた基礎疾患等が本件各出張という特に過重な業務の遂行によりその自然の経過を超えて急激に悪化したことによって発症したものとみるのが相当であり、上告人の業務の遂行と本件疾病の発症との間に相当因果関係の存在を肯定することができ、本件疾病は労働者災害補償保険法にいう業務上の疾病に当たるというべきである。
以上によれば、本件疾病が業務上の疾病に当たらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決は破棄を免れない。 - 適用法規・条文
- 労災保険法13条
- 収録文献(出典)
- 労働判例880号42頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大阪高裁 − 平成11年(行コ)第74号 | 棄却(上告) | 2000年07月31日 |
最高裁 − 平成12年(行ヒ)第320号 | 原判決取消(控訴認容) | 2004年09月07日 |