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H社臨時工整理解雇控訴事件

事件の分類
雇止め
事件名
H社臨時工整理解雇控訴事件
事件番号
東京高裁 − 昭和52年(ネ)第178号
当事者
控訴人 株式会社
被控訴人 個人1名
業種
農業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1980年12月16日
判決決定区分
控訴認容(上告)
事件の概要
 被控訴人(第1審原告)は、昭和45年12月1日に控訴人(第1審被告)柏工場に臨時員として採用され、同月20日まで雇用された後、2ヶ月ごとに5回の契約更新がなされたが、控訴人は柏工場の業績が悪化したとして、昭和46年10月20日限りで被控訴人を含む臨時員、パートタイマーを雇止めした。これに対し被控訴人は、本件労働契約は期間の定めがなかったこと、仮に期間の定めがあったとしても、5回更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていたなどとして、本件雇止めの無効を主張し、労働契約の存在確認と賃金の支払いを請求した。
 第1審では、採用時に契約期間についての明示がないまま労働契約の締結がなされたこと、契約の更新は女子事務員が預けられた印鑑を用いて被控訴人に知らせず行っていたこと等を理由に、本件労働契約は期間の定めのないものであったとした上で、控訴人会社全体としてみると業績悪化とはいえず、柏工場単位でみてもさほどの業績低下とみることができないこと、希望退職の募集等業績悪化の解決のための真摯な努力をしなかったこと等を理由に、本件整理解雇は無効であると判断した。そこで控訴人はこの判決を不服として控訴したものである。
主文
原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第1、第2審とも被控訴人の負担とする。
判決要旨
1 本件労働契約の期間の定めの有無

 昭和45年11月の面接において、控訴人面接担当者は被控訴人に対し、期間の定めのある契約であること、賃金は日給であること、採用後3ヶ月で本工の登用試験の受験資格ができる旨説明したが、3ヶ月後には当然に本工に登用する旨は述べなかったこと、柏工場の総務課員も同様な説明をしたことからすれば、本件労働契約は、当初昭和45年12月20日までを雇用期間として締結されたものということができる。してみれば、被控訴人の自白が真実に合致しないものとは到底認めることはできず、その取消しは許されない。

2 期間の定めのある労働契約の効力

法は短期の有期雇用契約を締結することを禁止していない(民法626条、労働基準法14条)。そして、柏工場の臨時員制度は受注の変動に応じて雇用量の調整を図る目的で設けられていること、臨時員の採用に当たっては学科試験や技能検定は行わず面接のみで採否を決定する簡易な方法を採っていることが認められる。このような臨時工を採用し、不況時の雇用量の調整を図ることは、常に景気変動の影響を受ける私企業としてはやむを得ないところがあるのみならず、労働者一般からしても、比較的容易に短期の職を得る道が開ける点において、必ずしも利益がないわけではなく、労働契約に短期の期間を定めることは、必ずしも公序良俗に反するということはできない。

3 期間の定めのある労働契約の反復更新の効果

 本件労働契約は5回にわたり反復更新され、柏工場の臨時員については雇用関係のある程度の継続が期待されていたと認められるが、雇用関係継続の期待の下に期間の定めのある労働契約が反復更新されたとしても、そのことにより、それが期間の定めのない契約に転化するとの法理は肯認し難く、当事者双方の期間の定めのない労働契約を締結する旨の明示又は黙示の意思の合致が存在しない限り、期間の定めのない契約となるものではない。

 被控訴人と控訴人との間における5回にわたる労働契約の更新は、いずれも期間満了の都度新たな契約を締結する旨を合意することによってされてきていたこと及び柏工場において臨時員は単純な作業に従事させる方針がとられており、いわゆる基幹臨時工と称されるべきものではなかったこと、本件労働契約が満了しても当事者のいずれかから格別の意思表示がなければ契約は当然に更新せらるべき旨の契約が締結されていたと認めるべき証拠もないことからすれば、被控訴人と控訴人との労働関係全体が期間の定めのない契約が存在する場合と同視すべき関係であるということはできない。しかしながら、他方柏工場の臨時員は臨時的作業のために雇用されるものではなく、従事する作業もそのようなものではなかったこと、また臨時員の雇用関係はある程度の継続が期待されており、現に5回にわたり契約が更新されているから、このような労働者を期間満了によって雇止めにするに当たっては解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用、信義則違反又は不当労働行為などに該当し、解雇無効とされるような事実関係の下に、使用者が新契約を締結しなかったとするならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係になるものと解せられる。

4 本件雇止めの効力

 臨時員全員の雇止めを行う場合、これに先立ち期間の定めなく雇用されている従業員につき、たとえ希望退職者募集の方法によるとしても、その人員削減を図るのが相当であるとすべきき事由は見当たらず、むしろこれに先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないものというべきである。けだし柏工場の臨時員は、景気変動に対応し、不況時に雇用量の調整を図るという前提の下に、比較的簡易な採用手続きによって期間を定めて雇用されたものであるから、たとえ雇用関係のある程度の存続が期待されていたとしても、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めなく雇用されている従業員とは、企業との結びつきの度合いにおいて自ずから差異があるのであって、むしろ特段の事情のない限り、まず臨時員の削減を図るのが社会的にみても合理的というべきであるのみならず、期間の定めなく雇用されている従業員は、一般的には臨時員に比べ、より企業の基幹たるべき労働者なのであるから、人員縮小後における企業の効率的運営という観点からすれば、たとえ希望退職者募集という方法によるとしても、先にこのような基幹労働者の削減を図ることが合理的であるとは到底いえないからである。

 臨時員、パートタイマーの雇止めが行われた後退職者が急増し、出向者の復帰を中止したことが認められるが、右退職者の急増は全く予想外の事態で、雇止め当時は予見できなかったことが認められるから、後に右のような事態が発生したとしても、雇止めの必要があるとした判断が合理性を欠いていたということはできない。

 配置転換については、柏工場と同様の製造部門である大阪工場に柏工場の余剰人員を吸収すべき余地が合ったと認める証拠はないし、両工場の沿革や遠隔地に所在することなどからすれば、臨時員についてはもちろんのこと、期間の定めなく雇用されている従業員についても大阪工場への配置転換が可能であったとは認められないのみならず、人員縮小後の柏工場の効率的運営という観点からすれば、柏工場に臨時員を残存せしめ、基幹たるべき従業員を他に配置転換させる方が合理的であるといえないことはいうまでもない。

 柏工場の業績悪化の原因が前示のとおりであり、当面その好転が見込まれなかった以上、被控訴人主張の労働時間の短縮や一時帰休によって対処し得ると認めるに足る証拠はないのみならず、臨時員の雇止めに先立ち、右のような方策をとるべきであるともいえない。

 被控訴人は、控訴人が本件雇止めにつき、被控訴人に対し誠意を示してその納得を得る努力をしていない旨主張するが、控訴人は臨時員、パートタイマーに雇止めを告知した際、柏工場の業績悪化の事情を説明し、被控訴人を除くその余の者はこれを了承したこと及び希望者には控訴人において就職先の斡旋をする旨告げ、斡旋を希望した6名の者は控訴人の斡旋によって他に就職できたこと、被控訴人は斡旋を希望しなかったことが認められ、被控訴人と柏工場課長らとの間で雇止めにつき話合いがされ、控訴人側は説得に努めたが互いに了解を得るに至らなかったことが認められるのであって、控訴人においてそれ以上の措置をとらなかったとしても、被控訴人が臨時員であることを考慮すれば、被控訴人の雇止めに当たっての控訴人の対応に不当な点があるということはできない。
 以上によれば、昭和46年10月の時点において臨時員の雇止めを事業上やむを得ないとした控訴人の判断に合理性に欠ける点は見当たらず、これに基づき被控訴人に対してした本件雇止めは、当時の控訴人の被控訴人に対する対応等を考慮に容れても、これを権利の濫用、信義則違反と判断する余地はない。
適用法規・条文
民法626条、労働基準法14条
収録文献(出典)
労働判例354号35頁
その他特記事項
本件は上告された。