判例データベース
H社臨時工整理解雇事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- H社臨時工整理解雇事件
- 事件番号
- 千葉地裁松戸支部 − 昭和46年(ワ)第268号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1977年01月27日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は昭和24年に設立された会社で、レントゲン機器の販売を行っていたが、吸収合併や営業譲渡によって事業を拡大し、販売・本社部門、大阪工場、柏工場の3部門となった。原告は昭和45年12月1日に被告に臨時員として雇用された者である。
原・被告間の労働契約(本件労働契約)は、当初20日間、その後2ヶ月間の期間の約定があり、5回にわたって更新されたが、被告は柏工場における業績悪化等を理由として、昭和46年10月20日限りで原告を含む臨時員及びパートタイマー契約の更新をしなかった。これに対し原告は、本件労働契約は実質的に期間の定めがなかったこと(原告が期間の定めがあった旨を認めた事実が仮にあったとすれば、右自白は真実に合致せず、かつ錯誤に基づくものであるから取り消す。)、仮に本件労働契約について期間の定めがあったとしても、それは本工との間の不当な差別に当たること等から公序良俗に反し無効であること、仮にそうでないとしても、原告ら臨時員の業務内容は本工と異ならず、契約が5回にわたり更新されていることなどからすれば、遅くとも本件雇止め当時、本件労働契約は期間の定めのないものに転化したか、当事者間に期間の満了のみによっては雇止めはしないという相互の信頼関係が生じ、原告と被告間の労働関係は期間の定めのない契約が存在するのと実質的に異ならない状態となっていたとみるべきであるとして、本件雇止めの無効による労働契約存在確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告が、被告に対し労働契約上の権利を有することを確認する。
2 被告は、原告に対し、昭和46年10月21日以降、被告が原告の就労を認めるまで、毎月29日かぎり、1ヶ月4万6272円の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを3分し、その2を被告のその余を原告の各負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告は、採用面接時に原告に対し、臨時工であること、雇用期間の定めがあること、更新等については言及せず真面目に働いていれば必ず正社員になれる旨話したこと、原告が昭和45年12月1日に柏工場に出頭した際、総務課員は雇用期間、更新、臨時員就業規則については何ら言及せず、所属課長も契約期間については何ら言及しなかったこと、このようにして原告は期間の定めのないものと考えて勤務するに至ったこと、被告は同月20日以降2ヶ月置きに更新手続きを行ったが、その更新手続きは原告所属の課において予め預けられていた原告の印鑑を女子事務員が原告に無断で労働契約書に押印し、原告は本件解雇に至るまでこのような経緯を知らされなかったこと、当時臨時員就業規則は存在したが、原告ら一般従業員にはこれを見せなかったこと、臨時員と本工との間で特別の区別は設けられず、就業時間も差異はなく、原告は技術的に向上し、真面目な勤務態度と相まって、本工推薦相当と評価される程度に至ったこと、被告においてはこれまで臨時員の雇止めが行われたことがなく、ほぼ10ヶ月から2カ年位の期間を経て正社員に登用されていたこと、昭和46年以降臨時員の勤務年数も勤続年数に加算されるようになったこと、柏工場においては臨時員の外、季節工、パートタイマーの職種が別に存在し、臨時員の臨時性は実体を欠いていたことの各事実が認められる。右事実によれば、原・被告間においては労働契約の期間の約定がなかったことが認められ、原告のなした自白は事実に反し錯誤に基づくものと推認し得るから、右自白の撤回は許されねばならない。
臨時員就業規則には「業務上の都合がある場合には解雇できる」旨の規定があり、「業務上の都合」とは客観的合理的に判断して真に解雇を必要とする程度の業務上の必要がある場合と解すべきであり、もちろん恣意的な解雇を許すものではない。
被告は柏工場における独立採算制を主張するが、右工場には販売権は認められていない等真の意味での独立採算制がとられていたものとはいえず、被告全体の利益は昭和45年下期から同46年下期にかけて毎期上昇しており、被告全体の売上高は同46年下期に前期より僅かに減少したほか、同45年から同47年上期にかけて毎期上昇していることが認められ、本件解雇当時被告全体が業績悪化の状態にあったと認めることができない。また柏工場における売上高も、昭和46年上期は前期より上昇し、同年下期において同年上期よりやや減少している程度にすぎず、さほど業績低下があったとみることはできない。しかも、被告が本件解雇前に希望退職者も募らなかったことは明らかであり、被告は業績悪化といいながら、その解決のため真摯な努力をすることなく、臨時員なるが故に、安易に原告を含む臨時員、パートタイマー20名の雇止めを敢行したことがうかがえ、しかも右のうち、原告を除く他の者はその雇止めを了承し、その後翌年3月までに自然退職者が激増し、出向者復帰を取り止めて出向者24名を被告社員に転属させたというのであるから、少なくとも原告解雇当時、自然退職者を募って努力すれば、原告を解雇しなくても、被告の予定する人員縮小の計画を実現し得たものと推認し得る。
以上の次第であるから、いまだ原告を解雇すべき業務上の必要があったものと認めることは困難であり、臨時員就業規則の解雇条項を適用するに由なく、これを理由とする本件労働契約の終了は理由がない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例270号53頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
千葉地裁松戸支部 − 昭和46年(ワ)第268号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 1977年01月27日 |
東京高裁 − 昭和52年(ネ)第178号 | 控訴認容(上告) | 1980年12月16日 |
最高裁 - 昭和56年(オ)第225号 | 棄却 | 1986年12月04日 |