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N株式会社配転命令拒否事件

事件の分類
配置転換
事件名
N株式会社配転命令拒否事件
事件番号
大阪地裁 − 平成9年(ヨ)第2212号
当事者
その他債権者 個人1名

その他債務者 N株式会社
業種
製造業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1997年10月14日
判決決定区分
認容(確定)
事件の概要
 債務者は薬品メーカーであり、債権者は債務者の事務職員として雇用され、大阪の本店で勤務していた女性である。

 債務者は、本社を東京に移すこととし、それに伴って平成8年5月債権者を枚方工場へ転勤させた。その後債務者は経営効率化の一環として枚方工場を閉鎖し、同工場に勤務する従業員のうち任意退職に応じない者を他の工場等に配転させることとし、債権者に対しては平成9年6月25日に福島県所在の白河工場への配転の内示をし、同年9月1日に発令した。債権者は、雇用される際、自宅から通勤可能な範囲で勤務する旨の合意があったこと、本件配転には業務上の必要性がないこと、債権者は京都市内で実母と暮らしているところ、実母は高齢・病弱で、1人暮らしも債権者とともに未知の土地で暮らすことも困難であることから、本件配転命令は通常甘受すべき程度を超えていることを主張し、本件配転命令を無効であるとして、仮処分を申し立てた。
主文
1 債権者が、債務者白河工場に勤務する雇用契約上の義務のない地位にあることを仮に定める。

2 申立費用は債務者の負担とする。
判決要旨
 配置転換命令については、就業規則に使用者の業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、労働契約成立の際に勤務地を限定する旨の合意がない場合には、使用者は個別的同意なしに従業員の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するが、当該転勤命令につき業務上の必要性が存在しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機、目的をもってなされたものであるとき若しくは従業員に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなどの特段の事情が存する場合には、当該転勤命令は権利の濫用に当たるものというべきである。

 本件においては、債務者の就業規則に使用者の業務上の都合により従業員の転勤を命ずることができる旨の定めがあることについては疎明があり、労働契約締結の際、債権者の勤務地を自宅から通勤可能な範囲とする旨合意したことについては疎明が不十分である。そして債務者の枚方工場が閉鎖されるのであるから、債権者の配置転換については業務上の必要性があるものというべきであり、本件転勤命令が特定の労働組合に所属する者を排除するなど他の不当な動機、目的をもってなされたものであることについては疎明が不十分である。しかしながら、本件転勤命令は、債権者の家庭の事情に照らすと、債権者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものと言うべきである。したがって、本件転勤命令は権利の濫用に当たるというべきである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
判例タイムズ962号152頁
その他特記事項