判例データベース
大阪市立工業高校事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 大阪市立工業高校事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成7年(ワ)第3841号
- 当事者
- 原告個人1名
被告O市 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1998年08月24日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 原告は、被告O市が設置するH工業高校で保健体育を担当する教諭であり、同校柔道部顧問として同部の指導に当たっていた。
平成7年2月頃、柔道部の女子部員であるAに対し原告が猥褻行為を行ったとする訴えがあったので、同校の校長が原告及び関係者からの事情聴取を行ったところ、校長は原告の猥褻行為が事実であるとの心証を強くした。そこで校長は、同年3月11日頃から原告に対し転勤を強く勧めたが、原告はこれに応じなかった。また同月19日の職員会議において、校長及び教頭は、約80名の職員に対して本件の事実経過について説明し、その中で教頭は「原告は黒である旨判断した」と発言した。また校長は同月29日、原告に対し、指定した座席で勤務し勝手な離席は許さないこと、自主研修は認めないこと等の職務命令を発し、原告の平成7年度の担任及び授業の割り当てをすべて行わなかった。
これに対し原告は、これら学校側の一連の行為によって名誉を毀損されたとして、H高校の設置者であるO市に対し損害賠償を請求した。 - 主文
- 判決要旨
- H高校校長が原告に転勤を求めたのは、原告がAから猥褻な行為をしたと訴えられ、Aが登校拒否をしている状況において、原告が引き続き同校で生徒指導に当たることは、Aとの関係で好ましくないとの判断に基づき、原告の同校での勤務が13年の長期に及んでいたことも考慮し、転勤によって問題解決を図ろうとしたためであることが認められる。そして校長がそのように考えたのは、校長として極めて当然のことであって、原告に対する転勤勧奨は正当な目的に基づくものであったというべきである。校長は、相当に強い表現を用いて原告の転勤を求めたことが窺われるが、原告は取り立てて思い悩むこともなく一貫して転勤を拒否しており、その結果校長も原告の転勤を断念していることにも鑑みると、校長による転勤勧奨は、それが原告の自由な意思を抑圧して転勤を強要するような性質のものであったとは到底いえないというべきであるから、原告に対する不法行為を構成するものではない。
職員会議における教頭の「原告は黒と判断した」旨の発言は、原告から猥褻な行為をされたとのAの訴えを、学校の立場から真実であると言明するもので、原告の社会的評価を低下させるものであることは明らかであり、80名の多数に対する発言であって、これが更に広く伝播する可能性が十分にある状況でされた発言であるから、原告の名誉を毀損する発言として違法性を帯びるというべきである。もっともこの発言は、本件事件の推移、事実経過を客観的に説明する限りは、正当な職務行為として違法性を有しないと考えられる。またその際、右目的の範囲内で学校としての判断を述べることも、それが本事件の真相が明らかでないことを前提とした上での発言であり、かつ十分に客観的な資料に基づいた判断であって、そのように判断することに相当な理由がある場合には許されるというべきである。しかしながら、本件においては、原告による猥褻行為が事実であると発言したことについて、これが正当な職務行為であるとの主張はない上、その内容が犯罪行為に当たるもので、場合によっては原告の教師生命を左右しかねない重大な事実であったことからすれば、その事実が存在したと判断したことを表明する必要があったか否かは疑わしく、結局教頭の前記発言は違法なものであるというほかはない。以上によれば、教頭の前記発言は、原告に対する不法行為を構成するというべきである。
高校の校長は、授業ないし学級担任をさせるか否か、課外活動の指導をさせるか否かを含め、教員に担当させる職務を決定する権限を有するところ、右権限は、当該学校における教育目的がよりよく実現されるために行使されるべきものであるから、校長は、その行使に関し、広範な裁量権を有すると解される。もっとも、右権限の行使が、何ら合理的理由もないのに、あるいは不当な目的をもって、教諭が教育に携わる機会を剥奪したり、侵害するものである場合には、裁量権を逸脱した違法なものとして、当該教諭に対する不法行為を構成する余地があるというべきである。これを本件についてみるに、校長は、原告が猥褻な行為をしたと訴えられ、Aが登校を拒否している状況に鑑み、原告が生徒の指導をすることは適当でないと考え、事実関係が明確になるまでの間、原告を学級担任及び教科担当から外し、専ら教務のみを担当させることとする目的で本件職務命令を発し、あるいは本件処分を命じたのであって、その目的は正当であり、手段において裁量の範囲を逸脱し違法と評価されるべき理由はないというべきである。
確かに本件職務命令には、生理的欲求による場合以外の離席を認めないとか、自主研修を禁止するなどのように、その表現がいささか妥当性を欠き、前記目的との関連が必ずしも明確でない事項が含まれているけれども、これらについても原告の離席や研修を不当に制限しようとの意図に基づいたものではないことが認められるから、必ずしも妥当でない表現が含まれているからといって、本件職務命令が原告の教員としての人格的権利を不当に侵害するものとして違法であるとまではいえないというべきである。また、原告の執務場所を、従来の体育教官室及び工業化学科の教員室から教務課に移動させたことも、原告に教務を担当させるためのものであるから、原告の権利を不当に侵害するものとはいえない。 - 適用法規・条文
- 02:民法 709、723 条,
- 収録文献(出典)
- 平成11年版年間労働判例命令要旨集351頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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