判例データベース
H社雇用契約上の地位確認等請求控訴事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- H社雇用契約上の地位確認等請求控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 昭和61年(ネ)第2116号
- 当事者
- 控訴人 株式会社H
被控訴人 個人2名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1987年03月25日
- 判決決定区分
- 控訴棄却(控訴人敗訴)
- 事件の概要
- 被控訴人Aは、昭和40年、被控訴人Bは昭和49年に株式会社Hにパートとして雇用された。その際、雇用契約書を交わしたり、期間を定めたりはしていなかったが、その後昭和55年ころから、パート従業員の雇用期間を1年と明記する労働契約を締結するようになり、Aは2回更新し、Bは1回更新した。昭和58年4月、A、Bに対して、同年5月に期間満了し契約更新はしない旨の通告がなされた。これに対し、Aらは地位保全の仮処分を申請し、静岡地裁は認容した(昭和58年8月16日)。その後、両者間に和解が成立したため、右仮処分は事情変更を理由として取消す判決が下された(昭和59年11月20日)。
しかし、就労再開後、A、Bは従前の衣装、包装の仕事でなく、草取りや門の開閉、ガラス拭き等の雑務に就労させられ、屈辱感を味わわされ、またその結果、腕や背中を痛め、通院加療し労災給付を受け、昭和59年7月初旬から欠勤を余儀なくされた。被控訴人Aは昭和60年8月から、被控訴人Bは昭和59年8月から就労が可能となり現職復帰を求めたが、控訴人はこれを認めなかった。
そこで、Aらは雇用契約上の地位の確認及び賃金の支払い、不法行為による慰謝料100万円等を各自控訴人に対し求め、提訴した。原審は、控訴人が出頭せず、準備書面も提出していなかったため、Aらの請求は一部認容された。
これに対し株式会社Hは、控訴した。 - 主文
- 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 本件雇用契約を期間の定めのない契約ないしはその定めのない契約に転化したものと解することはできないものの、実質においては、期間の定めは一応のものであって、いずれかから格別の意思表示がない限り当然更新さるべきものとの前提のもとに、雇用契約が存続、維持されてきたものというべきであるから、期間満了によって本件雇用契約を終了させるためには、雇止めの意思表示及び剰員を生ずる等従来の取扱いを変更して雇用契約を終了させてもやむを得ないと認められる特段の事情の存することを要するものと解するのを相当とするところ、控訴人は、期間満了を主張するのみであって、被控訴人らに対し雇止め(契約更新拒絶)の意思表示をしたことないしは右特段の事情の存することにつき何ら主張立証しない(右意思表示、特段の事情の存在を認めるに足りる的確な証拠もない。)から、控訴人の抗弁は理由がなく、被控訴人らと控訴人間の雇用契約は控訴人主張の期間満了により終了することなく、なお存続しているものというべきである。認定事実によれば、被控訴人らは債務の本旨に従った労務の提供をしており、控訴人はその受領遅滞にあるということができるから、被控訴人らにおいて労務の現実の提供をしなくても賃金請求権を失うものではないというべきである。また、以上認定の事実によると、控訴人の被控訴人らに対する前示行為は控訴人において故意に本来予定されていない業務につき被控訴人らに対し就労を命じたものであって、このような就労命令が控訴人の人事管理権に基づくものであるとしてもとうてい正常な人事管理権の行使とはいえず、被控訴人らの予定された業務の範囲を超えて著しく苦痛を与えたものであるから、違法に被控訴人らの権利を侵害した不法行為に該当するものであり、これによって被控訴人らは精神的苦痛を被ったということができ、これが苦痛を被った業務の内容、期間並びにその後控訴人らに生じた傷害その他本件に現われた全ての事情を斟酌すると、これを慰謝するには被控訴人らそれぞれにつき30万円をもって相当とする。
- 適用法規・条文
- 02:民法709条
- 収録文献(出典)
- 判例時報1246号139頁、労働判例506号15頁、労働経済判例速報1311号10頁、労働法律旬報1203号72頁
- その他特記事項
- 原審(No.68)、上告審(No.70)参照。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
静岡地裁 − 昭和60年(ワ)第564号 | 請求一部認容(原告一部勝訴) | 1986年07月04日 |
東京高裁 − 昭和61年(ネ)第2116号 | 控訴棄却(控訴人敗訴) | 1987年03月25日 |
最高裁 − 昭和62年(オ)第871号 | 上告棄却(上告人敗訴) | 1987年10月16日 |