女性労働に関する 専門家判例コラム


第3回  育児休業明け復職の原職相当職とは   君嶋 護男



育児休業明け

 育児・介護休業法では、その指針において、育児休業又は介護休業からの復職に当たって、事業主に対し、原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮することを求めています。そして、「原職相当職」の範囲は、一般的に、①休業後の職制上の地位が休業前よりも下回っていないこと、②休業前と後で職務内容が異なっていないこと、③休業前と後とで勤務する事業所が同一であることのいずれにも該当する場合は「原職相当職」と評価される旨通達で示しています。
 ところが、最近では「原職相当職」の扱いについて悩ましい事例が生じています。その一つは、「ゲームソフト開発会社育休後配転事件(東京地裁平成23年3月17日、東京高裁平成23年12月27日)です。この事件は、ゲームソフト開発会社で海外サッカーライセンス業務に従事し、グレードがマネジメント職候補に位置付けられていた女性が、産休及び育休を約9カ月間取得して復職した際、グレードをスタッフ職に降格されて国内業務に配転され、それに対応して給与も引き下げられたものです(激変緩和措置もあり約5%減額)。会社としては、日頃から、海外の顧客から「担当者が頻繁に代わり過ぎる」とのクレームを受けていたことから、職場復帰した女性を直ぐに原職に戻すことを避け、育児短時間勤務の取得も考慮して国内業務に異動させ、それに応じた給与としたわけです。
 第1審では、会社の措置を正当と認めましたが、控訴審では、国内業務への異動は良しとしながら、降格させたこと、それに伴って減給させたことは人事権の濫用であるとして、会社に慰謝料等60万円の支払いを命じました。
 育児休業制度が発足した頃は、育休を取得する者のほとんどは女性であり、平均すれば現在より若く、社内での地位も一般的には低かったことから、アルバイトや派遣社員等で何とか穴埋めをしていた場合が多かったように思われます。しかし上記事案のように、育休を取得する女性が重要ポストに就いているような場合、従来と同様な対応では済まず、正式な人事を行って育休者と同格の者を後任に充てることが求められる場合が多いものと思われ、上記事案では、会社が海外の顧客のクレームを受けて対応したところを見ると、恐らくそのように対応したものと推測されます。
 上記事案では、育休からの復職に当たって、会社側が育児短時間勤務を勧め、女性がこれに渋々従ったこと、裁判での係争中に女性が退職したこと、3000万円と、余り例を見ない高額な慰謝料を請求していることからすれば、復職に当たってかなりの確執があったことが窺われます。 育休取得者が1年程度(上記事案では約9カ月)で職場復帰した場合に「原職に戻す」となれば、せっかく業務に慣れてきた後任者を再び他の部署に異動させなければならず、また、そうしたことが最初から見えているとすれば、後任者のモチベーションも上がらないという問題も考えられます。また、育休復帰者を「原職相当職」に就けるとなると、特に中小企業においては、復帰時に上記基準を満たすような「原職相当職」があるとは限らないため、かなり困難な課題を抱えることが予想されます。 こうした課題を克服する確実な方法は見つけにくいでしょうが、日頃はもちろん、復帰に当たって、両者が十分な話合いを行って、完全にとはいかないまでも、少なくとも「まあ仕方がない」という程度の納得を得る努力をすることが双方に求められると考えられます。上記事案については、職場復帰の時期、育児短時間勤務の取得の有無、裁量労働の適用の有無等を巡って意見の相違があったことから、いわば喧嘩別れのような結果となったもので、できれば円満な形で職場復帰を実現して、育児休業からの復職の好事例を見せてもらいたかったとの感を否めません。

判例データベース

K社育休後降格等事件(マタハラ) 「参考判例」
事件番号:東京地裁 – 平成21年(ワ)第20155号

Y社降格控訴事件(マタハラ) 「参考判例」
東京高裁-平成23年(ネ)2946号

 

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