判例データベース

A建物管理上告事件

事件の分類
解雇雇止め
事件名
A建物管理上告事件
事件番号
最高裁 一小 − 平成30年(受)第755号
当事者
上告人 株式会社(1審被告、控訴人)
被上告人 個人(1審原告、被控訴人)
業種
不動産業(不動産管理業)、物品賃貸業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2019年11月07日
判決決定区分
上告一部棄却、一部破棄(差戻し)
事件の概要
本件は,上告人(Y)との間で有期労働契約を締結して就労していた被上告人(X)が,Yによる解雇は無効であると主張して,Yに対し,労働契約上の地位の確認及び解雇の日以降の賃金の支払を求める事案である。
 Xは,平成22年4月1日,Yとの間で,契約期間を同日から同23年3月31日までとする有期労働契約を締結し,Yが指定管理者として管理業務を行う市民会館で勤務することとなった。なお,上記労働契約には,契約期間の満了時の業務量,従事している業務の進捗状況,Xの能力,業務成績及び勤務態度並びにYの経営状況により判断して契約を更新する場合がある旨の定めがあった。その後,本件労働契約は,上記と同様の内容で4回更新され,最後の更新において,契約期間は平成26年4月1日から同27年3月31日までとされた(以下、「本件労働契約」という)。Yは,平成26年6月6日,Xに対し,同月9日付けで解雇する旨の意思表示をした(以下,これによる解雇を「本件解雇」という。)。
 1審(福岡地裁小倉支部判決2017(平成29)年4月27日)は、本件解雇を無効として、雇用契約上の地位確認等請求を認容したため、Yが控訴した。Yは,本件労働契約が契約期間の満了により終了したことを抗弁として主張する旨の記載がされた控訴理由書を提出したが、原審は,第1回口頭弁論期日において,Yの上記の主張は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとしてこれを却下し,口頭弁論を終結した。
 原審(福岡高裁判決2018(平成30)年1月25日判決)も,本件解雇には労働契約法17条1項にいう「やむを得ない事由がある」とはいえず,本件解雇は無効であるとし,最後の更新後の本件労働契約の契約期間が平成27年3月31日に満了したことにより本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく,Xの労働契約上の地位の確認請求及び本件解雇の日から判決確定の日までの賃金の支払請求を全部認容すべき旨の判断をした。Yが上告した。
主文
1 原判決中,被上告人の労働契約上の地位の確認請求及び平成27年4月1日以降の賃金の支払請求を認容した部分を破棄する。
2 前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
3 上告人のその余の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
判決要旨
 原審の判断のうち,契約期間の満了により本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく,Xの労働契約上の地位の確認請求及びその契約期間が満了した後である平成27年4月1日以降の賃金の支払請求を認容した部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係等によれば,最後の更新後の本件労働契約の契約期間は,Xの主張する平成26年4月1日から同27年3月31日までであるところ,第1審口頭弁論終結時において,上記契約期間が満了していたことは明らかであるから,第1審は,Xの請求の当否を判断するに当たり,この事実をしんしゃくする必要があった。
 そして,原審は,本件労働契約が契約期間の満了により終了した旨の原審におけるYの主張につき,時機に後れたものとして却下した上,これに対する判断をすることなくXの請求を全部認容すべきものとしているが,第1審がしんしゃくすべきであった事実をYが原審において指摘することが時機に後れた攻撃防御方法の提出に当たるということはできず,また,これを時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下したからといって上記事実をしんしゃくせずにXの請求の当否を判断することができることとなるものでもない。
 ところが,原審は,最後の更新後の本件労働契約の契約期間が満了した事実をしんしゃくせず,上記契約期間の満了により本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく,原審口頭弁論終結時におけるXの労働契約上の地位の確認請求及び上記契約期間の満了後の賃金の支払請求を認容しており,上記の点について判断を遺脱したものである。
 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,労働契約上の地位の確認請求及び平成27年4月1日以降の賃金の支払請求を認容した部分は破棄を免れない。そして,Xが契約期間の満了後も本件労働契約が継続する旨主張していたことを踏まえ,これが更新されたか否か等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
適用法規・条文
民事訴訟法246条、労働契約法17条1項
収録文献(出典)
労働判例1223号5頁
その他特記事項
本件は高裁に差し戻された。