判例データベース
N観光バス運転者雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- N観光バス運転者雇止事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成21年(ワ)第1026号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2011年02月18日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、一般貸切旅客自動車運送事業等を目的とする株式会社であり、原告(昭和36年生)は約16年間タクシー運転手の経験を有し、「平成19年7月16日から9月15日まで(原則として3ヶ月以内)、研修期間中に雇い入れることが適当でないと認めたときは、予告なしで雇用を解除する」などの条件で、運転者として被告に雇用された。
被告は、バス運転者として新規採用した者に対し実技研修を行った上、研修期間中に実施する中間検定及び最終検定のいずれかに合格した者を雇用期間1年の契約社員として採用しているところ、同年8月16日、原告に対し、中間検定を不合格と判定し、同日解約を申し入れた。なお他の新規採用者4名は、いずれも検定に合格し、契約社員として採用された。
原告は、被告との間に期間の定めのない労働契約が成立したとして、従業員としての地位確認と賃金の支払いを請求したが、被告は、本件労働契約は期間内に雇い入れることが適当でないと認めたときは予告なしで雇用を解除する権利を留保したものであるところ、原告の運転技量不足理由として留保解約権を行使したものであって、本件解約は有効であり、仮に本件解約が無効であるとしても、本件労働契約は平成19年9月15日、期間満了により終了したと主張して争った。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件労働契約の期間の定めの有無
1)本件労働契約における労務の内容は、バス運転の研修の受講及び検定の受験であり、同契約の目的は新規採用者のバス運転手としての適性・能力を判定することにあること、2)被告は、研修期間中に実施される検定に合格した場合には同人を契約社員として採用すること、3)契約社員は当初から営業車両の運転に従事すること、4)研修期間中の賃金と契約社員の賃金の内容は全く異なることが認められる。更に原告は、本件雇用契約書及び本件労働条件通知書の契約内容は研修期間中のものと認識していたことが認められる。そうすると、被告は本件労働契約の締結と同時に、新規採用者に対し、同人が所定の研修を終了し、かつ被告のバス運転者としての適性・能力を有することを条件として、本件求人票に記載されている契約社員の労働条件で労働契約の締結の申込みをしていると認めるのが相当である。
以上によれば、本件雇用契約書に記載されている「雇用登録期間」は、被告が原告に対し研修を実施し、バス運転者としての適性・能力を判定する期間である。また新規採用者(研修生)が検定に合格しなかった場合、同人において研修が続行されるとの合理的期待を有することを基礎付けるような事実は見出せないから、本件労働契約は検定の終了によりその目的を達し、その結果如何にかかわらず、同期間の満了により当然に終了すると解される。ところで、本件契約書には「平成19年7月16日から19年9月15日まで(原則として3ヶ月以内)」と記載され、齟齬があるが、「3ヶ月」の部分は誤記と認められ、本件労働契約は雇用期間2ヶ月の定めのある労働契約である。
2 本件労働契約の終了
本件雇用契約書には、「研修期間内に雇い入れられることが適当でないと認めたときは、予告なしで雇用を解除する」との規定が置かれているが、同規定にいう解除は解雇にほかならない。ところで、本件労働契約は期間の定めがあるから、労働契約法17条1項により、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において労働者を解雇できない。そして同条にいう「やむを得ない事由」とは、期間の満了を待たず直ちに契約を終了させざるを得ない事由を意味し、労働者の就労不能や重大な非違行為がある場合などに限られると解されるから、被告が労働者に対しバス運転者としての適性・能力がないと判定したことは、同条にいう「やむを得ない事由」に当たらないといわなければならない。よって、被告による留保付解約権の行使は認められないから、本件労働契約は平成19年9月15日の経過により終了したといえる。
3 契約社員の労働契約の成否
被告は、本件労働契約の締結と同時に、原告に対し、所定の研修課程を終了し、かつ被告のバス運転者としての適性・能力を有することを条件として、本件求人票に記載されている契約社員の労働条件で労働契約を締結する旨の申込みをしており、原告は本件中間検定後も、契約社員として採用されることを希望していたことが認められるから、契約社員の労働契約の成否は、原告が被告のバス運転者としての適性・能力を有していたか否かによることとなる。
原告は、1)平成19年3月20日に大型第二種運転免許を取得したばかりで、バス運転の経験を有しなかったこと、2)被告の採用試験においても1回目は不合格になっていること、3)研修中から、バス運転に関し、速度を出し過ぎる、速度にムラがある、左側に寄りすぎる、ふらつくなどの問題点を指摘されていたこと、4)本件中間検定においても、6名の判定者から問題点が指摘され、5名が「改善の見込みがなく、本採用しない」という意見であったことが認められる。したがって、被告が原告に対し、研修を続けても技能の向上が見込めないと判断したことは、必ずしも不当とは言えない。
以上により、原告被告間の労働契約関係は、平成19年9月15日の経過により終了し、以後両者の間に労働契約関係は存在しない。 - 適用法規・条文
- 民法1条2項、709条、労働者派遣法26条5項、6項、40条の2第3項、第5項
- 収録文献(出典)
- 労働判例1030号90頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|