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郵便事業(期間雇用社員)雇止控訴事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 郵便事業(期間雇用社員)雇止控訴事件
- 事件番号
- 広島高裁岡山支部 - 平成22年(ネ)第82号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 郵便事業株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2011年02月17日
- 判決決定区分
- 原判決一部変更(一部認容・一部却下、一部棄却)(上告)
- 事件の概要
- 控訴人(第1審原告)は、大学在学中の平成15年5月17日、日本郵政公社(岡山郵便局)に非常勤職員として任命され、以後、公社及び公社の権利義務を承継した被控訴人(第1審被告)との間で雇用契約を更新し、平成19年4月2日から9月30日までの雇用契約を締結した後、更に平成20年3月31日までの雇用契約(本件契約)を締結した。
控訴人は、平成16年から平成20年までの間に5回の交通事故を起こしたことなどから、被控訴人は控訴人がバイクを運転するに当たっての適性を欠いていると判断し、平成20年3月31日付けで雇用契約を終了させた。
これに対し控訴人は、被控訴人の前身である公社時代から通算して4年4ヶ月にわたり雇用契約を反復・継続している上、その従事する業務は基幹的・恒常的業務であることからすると、本件雇用契約は期間の定めのないものに転化しているか、雇用継続への期待には合理性があるから本件雇止めには解雇権濫用法理が類推適用されるところ、本件雇止めには合理性がないとして、被控訴人に対し、雇用契約上の権利を有することの確認と賃金の支払いを請求した。
第1審では、本件雇用契約を更新しなかったことには合理性があるとして、控訴人の請求を棄却したことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人が、被控訴人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
3 被控訴人は、控訴人に対し、平成20年4月1日から本判決確定の日まで、1ヶ月につき26万3832円を、当該月の翌月24日限り支払え。
4 控訴人の訴えのうち、本判決確定後の賃金支払を請求する部分を却下する。
5 控訴人のその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用は、第1、2審とも控訴人の負担とする。
7 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件雇止めに解雇権濫用法理が適用されるか
公社の非常勤職員の任用に関しては、人事院規則に基づき策定された公社非常勤職員任用規程により取り扱われており、非常勤職員として任期を定めて採用された場合において、その任期が満了し、その任用が更新されないときは当然退職する旨規定し、日々雇い入れられる職員が引き続いて勤務していることを任命権者が知りながら別段の措置を講じないときは、従前の任用と同一の条件をもって更新されたものとする旨規定している。そうすると、控訴人と公社との間の雇用関係は、勤務関係の根幹をなす試験、分限、懲戒、服務等について国家公務員法及びそれに基づく人事院規則による公法的規制が適用される公法上の任用関係であって、このような公法上の任用関係においては、国家公務員法及びそれに基づく人事院規則によって、その任用形態の特例及び勤務条件が細部にわたって法定されており、当事者間の個人的事情や恣意的解釈によってこれらが変更される余地はないというべきである。
控訴人と被控訴人間の本件雇用契約は私法上の雇用契約であるから、雇止めの場合に、一般的に解雇権の濫用法理を類推適用する余地がある。すなわち、期間雇用社員の雇用契約が反復更新されて期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態となった場合、又は期間の定めのない雇用契約と実質的に同視できない場合でも、雇用継続に対する期待に合理性がある場合には、解雇権濫用法理が類推適用されると解される。そして、本件雇用契約から本件雇止めまでには、6ヶ月間の有期雇用契約が1回なされたのみであり、それ自体更新がなされた実績はない。しかし、控訴人は公社時代の平成15年5月17日に採用されて、以後平成16年9月30日までの間は1ヶ月余ないし3ヶ月弱で7回、同年10月1日から平成19年9月30日までの間は6ヶ月毎に6回にわたって更新を繰り返し、本件雇用契約を含めれば、更新回数は13回、雇用期間は4年10ヶ月余に及んでいる。そして、控訴人の職務内容は、公社時代及び被控訴人を一貫して常勤職員と変わりなく、基幹的な業務を主体的に担っていたといえるし、その習熟度により業務遂行に貢献していたのであって、その任用ないし雇用継続は強く期待されていたということができる。そして、控訴人は公社時代にAランク習熟度有との認定を受け、それに伴い賃金についても当初に比べ相当増額され、臨時手当についても公社時代の在職期間が括かされ、年次休暇、勤続年数等を併せた待遇をほぼそのまま被控訴人との雇用契約に引き継がれている。また、仕事の継続を望む期間雇用職員については、そのほとんどが契約更新されており、契約更新は常態化していたものと認められる。したがって、相当年数雇用関係の更新を重ねてきた期間雇用社員らにとって、被控訴人発足後半年を経過せず1回の更新がなされていない時期においても、契約更新の期待は極めて強いものと考えられる。
もっとも、公社の非常勤職員としての地位は、その任用期間が満了すれば更新されない限り当然に終了するほかないが、公社時代から非常勤職員の職務内容や業務上の役割ないし重要度は変わっておらず、被控訴人においては、一方では正社員は公社時代の職員としての地位をそのまま継続しており、期間雇用社員についても、新たな雇入れの形式を採る一方、賃金、臨時手当や休暇、勤続年数等の待遇は制度的に引き継いでいるのであるから、契約更新の期待が起こり得ず、あるいは弱いものとみることはできない。したがって、控訴人は、被控訴人との雇用契約の更新について、合理的な期待を有するものというべきであるから、本件雇止めについては解雇権の濫用法理が類推適用され得るというべきである。
2 本件雇止めの有効性
控訴人としては、被控訴人の職員として、交通事故を繰り返すことにより、第三者に対する安全確保を損なっている点問題があるものの、なお、本件各事故を理由として運転者としての適性を欠いているとはいえないのみならず、控訴人の運転適性から見て、その自覚及び被控訴人において控訴人の勤務条件上なすべき配慮により改善は十分可能であり、他方、被控訴人の事業運営上、本件各事故の程度では到底職員としての身分を喪失させるような場合には当たらない一方、控訴人には職務の遂行上高い評価が与えられる実績もあったものである。そして、就業規則10条1項には「会社が必要とし、本人が希望する場合は、雇用契約を更新することがある。ただし、雇用契約期間が終了した際に、業務の性質、業務量の変動、経営上の事由等並びに社員の勤務成績、勤務態度、業務遂行能力、健康状態等を勘案して検討し、更新が不適当と認めたときには、雇用契約を更新しない。」と定められており、本件雇止めに関しても、上記ただし書きの要件を満たすことが必要と解すべきところ、被控訴人には運転者としての適性以外に上記更新が不適当とする事由は認められず、しかも控訴人が運転者としての適性を欠いており、今後の自覚、指導や勤務条件の変更によって改善が期待できないとはいえないから、上記条項に基づき、被控訴人が本件雇用契約の更新をしない場合には該当しないというべきである。
したがって、本件雇止めは効力を有せず、本件雇用契約期間満了後における被控訴人と控訴人の間の法律関係は従前の雇用契約が更新されたのと同一の法律関係になると解すべきである。以上によれば、控訴人は、被控訴人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることになる。
また、被控訴人は控訴人に対し、賃金から通勤費分を除いた1ヶ月につき26万3832円を支払うべき義務を負うが、被控訴人が本判決確定後においても、なお賃金を支払わないと認めるに足りる証拠はないから、本判決確定後の賃金請求については、予めその請求をする必要があるとはいえず、当該請求に係る訴えは却下すべきである。 - 適用法規・条文
- 労働契約法16条、17条
- 収録文献(出典)
- [収録文献(出展)]
- その他特記事項
- 本件は上告された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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岡山地裁 - 平成20年(ワ)第782号 | 棄却(控訴) | 2010年02月26日 |
広島高裁岡山支部-平成22年(ネ)第82号 | 原判決一部変更(一部認容・一部却下、一部棄却)第(上告) | 2011年02月17日 |