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姫路労基署長(運輸会社)脳出血事件

事件の分類
過労死・疾病
事件名
姫路労基署長(運輸会社)脳出血事件
事件番号
神戸地裁 − 昭和61年(行ウ)第3号
当事者
原告個人1名

被告姫路労働基準監督署長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1987年11月12日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 原告(昭和10年生)は、運送業を営むG運輸に作業長として、主として配車業務に従事したほか、車両、設備及び預かった荷物の管理を担当し、また稀に短時間の運転業務、営業関係業務及び欠員補充要員として夜間当直にも従事していた。

 原告の勤務時間は、土曜日を含め、平均して午前6時30分頃出勤し、午後6時20分頃退社しており、夜間の当直のときはこれに引き続いて午後6時から午前7時まで勤務した。また、原告は、日曜日、祝日のほか月1回の指定休日を取っていた。

 昭和55年8月6日、原告は午前6時29分頃出勤し、長期預かり荷物の数量等の確認をした後、同7時20分上司の2人を自宅まで迎えに行き、同8時から配車業務に就いた。原告は午後6時に当日の配車業務及び車両、預かり荷物の点検を済ませて臨時の夜間当直業務に入り、夕食後盆期間の配車計画を立て、コンピューター用プログラム原紙の点検などをするうち、午後6時40分頃、高血圧性脳出血により左片麻痺、顔面神経麻痺(本件発病)を発症して倒れ、入院して治療を受けたが、その後も左不全麻痺、左半身知覚障害の症状が存続し、通院治療を受けるようになった。
 原告は、本件発病が業務に起因するとして、被告に対し、労災保険法に基づく療養補償給付の請求をしたところ、被告は本件発病は業務外の事由によるものとして不支給処分(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消を求めて本訴を提起した。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 原告は、本件発病の原因として、盆前の業務の増大、気象条件と作業環境の不調整、長女の遠足の土産話を聞く機会を奪われたこと、上司に作成してもらったプログラム原紙の点検作業の煩わしさに対する不満を挙げるが、右仕事の増量が特に際だったものであったことを認めるに足る証拠はなく、当時は夏ではあったが、気温は午後6時の時点で26.8度で猛暑というほどでなく、冷房との関係で体調を崩した徴候も見出されず、また仕事のため家族の団らんの楽しみが奪われることや、右の程度の上司の仕事ぶりに対する不満は日常茶飯に起こり得ることで、これが原告の心身の状態に格別の影響を与えたとは解し難い。

 原告は、最高血圧が昭和50年4月頃から162ミリに達するようになり、医師にかかることを勧められ、その後も血圧が次第に高くなる傾向にあったのに、仕事の忙しさにかまけて昭和52年4月26日以降は医師の診断を受けなかったばかりか、健康診断さえ受診せず、殆ど毎日1、2合飲酒するなど、健康保持に対する適切な配慮を怠った生活を続けてきたことが認められる。

 以上の事実によれば、原告は、G運輸においてかなりの重労働に従事していたということができるが、当時成人男子として働き盛りの年齢にあった上、発病当時の業務もいわば慣れきった仕事というべきもので、これにより心身の疲労を自覚していた徴候はなく、当日の業務その他に原告の心身に特段過重な負担をもたらす出来事があったことも窺うことはできない。

 一方原告は、昭和50年頃より高血圧症の素因を有し、それが加齢とともに増悪する傾向にあったにもかかわらず、自覚症状がなかったところから、医師の診断も受けず、健康保持に対し殆ど気を配ることもなかったことが認められる。
 以上の諸点と、本件発病の誘因として具体的に前記業務を指摘する医師の所見もないことを総合勘案すると、本件発病は、疾病の要因としての高血圧症が、自然的経過により増悪し、たまたま就業の機会に発症したもので、原告の業務との間に相当因果関係はないと判断せざるを得ず、したがって本件処分は適法というほかない。
適用法規・条文
99:その他 労災保険法13条
収録文献(出典)
労働判例507号49頁
その他特記事項
本件は控訴された。