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札幌労基署長(運送会社)脳内出血死事件
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 札幌労基署長(運送会社)脳内出血死事件
- 事件番号
- 札幌地裁 − 昭和53年(行ウ)第13号
- 当事者
- 原告個人1名
被告札幌労働基準監督署長 - 業種
- 分類不能の産業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1980年07月04日
- 判決決定区分
- 認容(控訴)
- 事件の概要
- F(大正9年生)は、炭坑を離職後、昭和48年9月からP運輸に作業員として就労していた。Fの業務内容は、始業時から午前11時頃まで発送ターミナルにおいて前日の伝票整理及び積み残し荷物の点検を行い、その後S電機に出向して日計表を作成し、昼休みを取った後、午後2時までS電機の出先からの注文に応じ、品物の取揃え、伝票・荷札の作成・荷札付け、伝票の突合等の準備をした上、午後3時頃集荷車(4ないし10トン)に荷物を積み込んだ上、午後5時頃右集荷車に同乗してP社発送ターミナルに戻り、運転手・助手が荷物を降ろし、各方面別に荷物を仕分けし、作業員が台車に積み込む作業を責任者として指導し、自らも作業を手伝うこともあった。
Fは、炭坑勤務の昭和47年11月当時、最低血圧が110であったものの、特段の措置が講ぜられず、P社の入社時の検査でも血圧を含めて異常は発見されなかった。ところが、昭和49年6月の定期健康診断において、胸部X線検査により精密検査が必要とされ、腫瘍の疑いがあり他病院での精密検査が必要で要注意との指示がなされ、同年8月3日の再検査では軽作業可の指示がなされたが、Fはこの結果をP社に報告することなく平常勤務を継続していた。
Fの勤務時間は午前9時から午後6時まで(休憩1時間)、休日は日曜日とされていたが、出勤時間は送迎バスの関係で変動があり、月1回の休日労働の外、午後8時頃まで時間外労働をするのが常であり、有給休暇の取得は1日であった。
昭和49年8月10日、Fは午前9時36分に出勤後、通常の業務を行った後、S電機に出向し、通常の作業を行った後、午後4時頃発送ターミナルに戻り、仕分け作業等を行っていた午後5時10分頃挙動がおかしくなり、病院に搬送されたが死亡するに至った。
Fの妻である原告は、Fの死亡は業務上の事由によるものであるとして、被告に対し労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、被告はこれを不支給とする処分(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として、審査請求更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。 - 主文
- 被告が昭和49年10月28日付で原告に対してなした労働者災害補償法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。
- 判決要旨
- 「労働者が業務上死亡したとき」とは、労働者が業務に起因して死亡した場合をいい、右業務と死亡との間には相当因果関係の存在が必要というべきであるから、当該業務に就かなかったら当該疾病にかからなかったであろうという単なる条件関係だけでは足りず、労働者が高血圧症等の基礎疾病を有する場合には、当該業務が基礎疾病を増悪させて死亡の時期を早める等それが基礎疾病と共働原因となって死亡の結果を招いたものと認められなければならないと解すべきである。
これを本件についてみるに、Fは高血圧症という基礎疾病を有していたところ、炭坑の閉山という自己の予期せぬ事情により転職を余儀なくされ、P社へ再就職後の連続する残業及び休日出勤の反覆により疲労が徐々に蓄積され、作業責任者としての精神的緊張も加わり、これが為特に昭和49年7月頃には高血圧症による血管障害を相当進行させたと推認される上、発病当日にはP社に再就職後初めての夏期の高温の貨車内での作業という肉体的負担も加わり、遂に脳出血を発症して死亡したものと推認することができる。
してみると、Fの死亡は基礎疾病たる高血圧症が同人の従事していた業務によって増悪され、基礎疾病と業務との共働原因に基づくものであるから、業務に起因すると認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 07:労働基準法79条
07:労働基準法80条
99:その他 労災保険法12条の8第2項
99:その他 労災保険法16条の2
99:その他 労災保険法17条 - 収録文献(出典)
- 判例時報995号45頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
札幌地裁−昭和53年(行ウ)第13号 | 認容(控訴) | 1980年07月04日 |
札幌高裁 − 昭和55年(行コ)第5号 | 原判決破棄(控訴認容) | 1984年05月15日 |