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地公災基金高知県支部長(O中学教諭)くも膜下出血控訴事件【過労死・疾病】

事件の分類
過労死・疾病
事件名
地公災基金高知県支部長(O中学教諭)くも膜下出血控訴事件【過労死・疾病】
事件番号
高松高裁 − 平成2年(行コ)第2号
当事者
控訴人 地方公務員災害補償基金高知県支部長
被控訴人 個人1名
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1994年07月28日
判決決定区分
控訴棄却
事件の概要
被控訴人(第1審原告)は、昭和31年に中学校助教諭に採用され、昭和51年当時、O中学校教諭の地位にあった者である。

 被控訴人は、昭和51年度には1年生の学級担任及び学年主任となったほか、寄宿舎の舎監にもなり、当初宿直は週2回であったものが、同年9月以降教頭の病気のため、事実上の舎監長となり、週3日宿直をするようになった。

 被控訴人は、同年11月17日、学校での勤務の後寄宿舎の宿直に就いたところ、寮生1名が風邪をひいたため、病院に連れて行き、帰ってからは風邪をひいた数人の寮生の看病に深夜まで当たり、翌日は平常勤務に就いていたところ気分が悪くなり、意識不明となって病院に搬送され、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血と診断された。

 被控訴人は、本件くも膜下出血は公務に起因するものであるとして、控訴人(第1審被告)に対し公務災害の認定を求めたが、控訴人は公務外の災害であると認定する処分(本件処分)をした。被控訴人は本件処分を不服として審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消を求めて本訴を提起した。
 第1審では、被控訴人の公務と本件疾病との間の相当因果関係を認め、本件処分を取り消したことから、控訴人はこれを不服として控訴した。
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
判決要旨
 地方公務員災害補償法の補償の対象となる「公務上の災害」は、公務と相当因果関係をもって生じた災害をいう。右の相当因果関係があるというためには、公務が最も有力な原因であることを要するものではなく、災害の発生につき他に競合する原因があっても、公務が相対的に有力な原因となって当該災害が発生したと認められる関係があれば足りる。そして、公務が相対的に有力な原因であったかどうかは、経験則に照らして、当該公務が当該災害を生じさせる危険があったと認められるかどうかによって判断すべきである。しかるところ、脳出血のような中枢神経及び循環器系の疾病は、素因(脳動脈奇形、脳動脈瘤等)ないし基礎疾病(動脈硬化、高血圧等)があった場合、公務に起因しない原因のみによっても発症することが多いので、素因ないし基礎疾病を自然的経過を超えて急激に著しく増悪させ得ると医学経験則上認められる負荷が災害発生前にあったことを、公務起因性肯定の判断基準とする考え方があり、控訴人の主張はこれに依るものである。

 しかし、日常の職務内容自体が質的又は量的に過激なものであったときには、職務内容の特段の変化がないまま発病に至ったとしても、職務が疾病の有力な原因である場合のあり得ることは医学的にも否定し得ないところであろう。したがって、右のような考え方は、相当因果関係の認定基準としては狭きに失する。そこで、公務上の災害発生直前の職務内容が日常の職務に比べて質的又は量的に過激ではなかったような場合であっても、当該公務の遂行が基礎疾患と共働原因となって災害が発生したと認められるようなときには、特段の事情がない限り、公務起因性を肯定するのが相当である。

 被控訴人は、O中学校に赴任当時43歳で、18年の教員歴があったところ、生徒の非行問題に中心となって取り組むのみならず、舎監勤務も積極的に担当して寮生の指導に当たり、寮生と一緒に体操や掃除をして登校することが多く、昭和51年9月から事実上の舎監長として、従来の週2回から週3回の宿直をするようになった事実を併せ考えると、通常の教諭と比べ、被控訴人の勤務状態は、その日常の職務内容自体が質的又は量的にかなり過重なものであったところ、同年9月からは更に過重なものとなったと認めるのが相当である。
 以上の状況及び本件疾病発症前の被控訴人の質的又は量的に過激といえる勤務状態に、医学的所見を総合すると、本件疾病発症日には、被控訴人の精神的・肉体的疲労が極限に近い状況に達し、それにより一過性の血圧上昇又は血行状態の不安定な変動が起こり、それが脳動脈瘤破裂の原因になったもの、すなわち本件については、被控訴人の公務の遂行が脳動脈瘤の基礎疾患と共働原因となってくも膜下出血が発症したものと推認するのが相当である。そうすると、本件疾病は公務起因性があるというべきである。
適用法規・条文
地方公務員災害補償法26条、28条、45条
収録文献(出典)
労働判例660号48頁
その他特記事項