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C会S病院配転拒否解雇控訴事件

事件の分類
解雇
事件名
C会S病院配転拒否解雇控訴事件
事件番号
東京高裁 - 平成10年(ネ)第835号
当事者
控訴人兼被控訴人(第1審原告) 個人6名 A、B、C、D、E、F
被控訴人兼控訴人(第1審被告) 医療法人直源会
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1998年12月10日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(上告)
事件の概要
 第1審被告(被告)は、S病院を経営する医療法人であり、第1審原告(原告)らは被告に雇用されて同病院に勤務していた者である。

 被告は、ケースワーカーとして勤務していた原告Aに対し平成6年9月1日付けでナースヘルパーへの配転を命じたところ、原告Aは職種が違うとして、ケースワーカーの職務を続けた。そこで被告は、相談室の電話を取り外すなどして原告Aがケースワーカー業務ができないようにした。また、原告Aは本件配転問題を契機に原告B~Fらと共に同年9月2日、県医労連に個人加入し、同月21日組合を結成して県医労連に加盟した。

 組合及び医労連と被告は地労委のあっせん員を立会人として、(1)相談室業務を従来の体制に戻す、(2)原告Aの配転については今後労使双方で解決する、(3)県医労連と被告は、誠実な交渉を行い、良好な労使関係の構築に努めるとの合意をしたが、その後、被告は原告Aに対し、配転命令拒否を理由として同年10月21日に解雇を通告した。被告は、原告Bに対しては、指示されていたにもかかわらず何の報告もなかったこと、重要な情報交換手段である渉外日報が途絶えたことのよる業務上の支障は大きいこと、業務上の命令に違反したことを理由に同年11月8日付けで解雇を通告した。

 原告らは、同年11月26日、小田急相模大野駅付近で、被告に対する抗議のビラまきを行ったところ、被告は原告Cに対し、同年11月29日付け書面により、ビラをまいて事実に反する内容を宣伝流布し、病院の信用と名誉を著しく傷つけたとして、同月30日付けで懲戒解雇をする旨通告した。被告は、同月30日の朝礼において人事異動を発表し、原告D、同E及び同Fをナースヘルパーとして配転する旨発表し辞令を交付したが、右原告らが配転を拒否したことから、被告は就業規則違反として懲戒解雇した。

 原告らは、本件解雇について、(1)解雇すべき事由がない、(2)解雇権の濫用である、(3)原告らの組合活動を理由とする不当労働行為であるなどと主張し、解雇の無効と賃金、一時金の支払いを請求した。
 第1審では、本件解雇はいずれも正当な理由がないとして無効としたが、原告らの賞与の請求については、人事考課査定が請求権発生の前提となるところ、これがなされていないとして請求を棄却した。そこで、原告、被告双方が判決を不服として控訴した。
主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。

2 1審被告は1審原告らに対し、それぞれ、原判決別紙債権目録の1審原告の氏名欄の各氏名に対応する同目録三の金員欄記載の金員及びこれに対する平成7年7月22日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同目録の1審原告の氏名欄の各氏名に対応する同目録四の金員欄記載の金員及びこれに対する同月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 当審における1審原告らのその余の予備的請求を棄却する。

4 当審における訴訟費用は、1審被告の負担とする。
5 この判決第2項は、仮に執行することができる。
判決要旨
 配転撤回協定の趣旨は、被告は原告Aに対する配転命令を完全に撤回し、原告Aをケースワーカーの職務に戻すという趣旨ではなく、取りあえず配転命令を一旦撤回し、改めて労使双方の話合いにより、原告Aの職務内容、配転に関する問題について解決するとの原告Aについての暫定協定に過ぎなかったことが窺われる。被告は、原告Aは配転問題について労使の話合いがつくまでの間相談業務に従事してはならない旨の業務命令に違反して勝手にケースワーカーの職務を行った旨主張する。しかし仮にそのような業務命令が発せられたとしても、原告Aが行ったとされる業務は、入院患者の病状について家族に説明したこと、相談室の担当者が家族と連絡を取ろうとしたのに対し消極的な意見を述べたというものであって、いずれも相談室の業務が再開されるまでの間の応急的な措置としてなされたもので、これにより被告の業務が阻害されたとも認められないから、業務命令違反の行為とまでいうことはできない。そうだとすると、原告Aが就業規則の解雇事由に該当するとの被告の主張は理由がない。

被告は、渉外日報を原告Bが取りまとめて提出する必要性や業務日報を作成・提出する必要性を明らかにしていないし、これらが提出されないことによる業務阻害の有無及び内容を明らかにしていないことに加え、これらの提出の督促もないまま解雇通知に至っていることからしても、渉外日報及び業務日報の提出を原告Bに指示する必要性、合理性についての疑問を払拭することはできない。したがって、原告Bにつき就業規則の解雇事由があるということはできない。

 労働組合が組合員に対してのみならず、その支援者や一般人に対してビラを配布する等の方法により、宣伝活動を行い又は支援を訴えることはもとより正当な組合活動であり、使用者に対する抗議や要請行動を呼びかけることも、それが組合活動に籍口して使用者に害を加える目的から出たものでない限りは、正当な組合活動といって妨げない。そして、使用者に対する抗議や要請行動の呼びかけが正当な組合活動と認められる限りは、使用者の電話番号やファクシミリ番号を開示しても許されるというべきである。

これを本件についてみるに、本件ビラの記載が被告に対する加害目的からなされたことを認めるに足りる証拠はなく、原告らが抗議や要請行動の相手先として、相模原南病院の電話番号及びファクシミリ番号を表示したことを不当ということはできず、そのことが正当性を逸脱した組合活動であるとまではいうことができない。以上のとおり、原告Cが本件ビラに右のような記載をしたことをもって就業規則の解雇事由に該当するということはできない。

 被告は、原告Cが本件ビラで支援者や一般人に対し被告病院等に対する抗議行動を呼びかけ、連絡先を記載したことは、業務妨害を企てたものであり、職務専念義務に違反する旨主張する。しかし、本件ビラでの抗議行動の呼びかけは正当な組合活動として許される範囲のものであり、原告Cに組合活動に籍口して原告の業務を妨害しようとの意図を持って抗議行動を呼びかけたと認める証拠もないから、被告の主張は採用の限りでない。またビラに連絡先として病院の電話番号を記載したからといって、それだけでは勤務時間中に組合活動をしたことにはならないから、職務専念義務違反であるとの被告の主張も採用の限りでない。以上のとおり、原告Cが就業規則の解雇事由に該当するということはできない。

 被告就業規則の「業務上の必要により職種の変更を命ずることがある」旨及び「職員は正当な理由なくして異動を拒むことはできない」旨の規定は、一般職員については同じ業務の系統内での異なる職種間の異動(薬局助手から医療事務職等)についての規定であり、業務の系統を異にする職種への異動、特に事務職系の職務から労務職系への異動については、業務上の特段の必要性及び当該従業員を異動させるべき特段の合理性があり、かつこれらの点についての十分な説明がなされた場合か、あるいは本人が特に同意した場合を除き、被告が異動を命ずることはできないと解するのが相当である。

 被告が、これまで事務系統の職種である医療事務職ないし薬局助手として事務的作業に従事してきた原告D、同E、同Fに対し、労務系統に属し、労務的作業を職務内容とするナースヘルパーへの拝呈転換を命ずるについて、客観的にみて、そのような全く職務内容を異にする職種への配置換えを命じなければならない特段の業務上の必要と合理性があったとは到底認めるに足りないにも拘わらず、被告は右原告らに一方的に異動を命じたものであるから、右原告らが配転命令を拒否したことをもって解雇事由に該当するということはできない。以上のとおり、原告らの解雇事由に関する被告の主張にはいずれも理由がないから、本件各解雇はいずれも無効である。

 被告では、従前から従業員の一時金の支給決定については、協定上ないし就業規則上は全額人事考課査定とされてはいるが、実際には勤怠のみが減額査定の対象とされていて欠勤、早退などがない者については平均支給率をもって一時金の支給がされているものと推認されるが、そうであったとしても、一時金の支給請求権は、被告が人事考課査定をし、個々人の支給額を決定して初めて発生するものと解するのが相当である。したがって、被告は、原告らに対し、本件各協定に基づき、支給日までに人事考課査定をして当該原告に対する具体的な一時金の支給額を決定し、本件各協定で定められた支給日までに一時金を支給する義務を負うものといわなければならない。ところが、被告は何ら正当な理由なくして、原告らに対し、平成6年度年末一時金及び平成7年度夏季一時金の支給の前提となる人事考課査定をせず本件各協定に定められた支給日までに一時金の支給額を決定して、これを支給することをしなかったから、原告らは被告により一時金の支給を受けるべき期待権を侵害されたというべきである。

 被告にあっては、実際には勤怠のみが減額査定の事由とされる運用が行われており、通常は従業員は平均もって一時金を支給されていることが認められる。しかも、原告らは、全員解雇され、本件各一時金の支給期間中、被告により就労を拒絶され、就労が全くできなかったところ、右就労不能は被告の責めに帰すべき事由であって、原告らが本件各一時金の支給期間中就労していなかったことは一時金の減額査定の事由にはならないものと解するのが相当であるから、被告において特に原告らの不就労が被告の就労拒否とは無関係であることを立証しない限り、原告らは100%就労したものとして、本件各一時金の支給を受ける期待権を有しているものというべきである。
 したがって、原告らは、被告が本件各協定で定められた一時金の支給日までに原告らに対する人事考課をして、原告らに対する一時金の支給額を決定しなかった違法により、それぞれ、平成6年度年末一時金、平成7年度夏季一時金については、別紙債権目録記載の金額の損害を被ったものと認められる。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例761号118頁
その他特記事項
本件は上告されたが、理由がないとして棄却された(最高裁 1999年6月11日判決)。