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岡山郵便局非常勤職員雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 岡山郵便局非常勤職員雇止事件
- 事件番号
- 岡山地裁 - 平成12年(ワ)第1192号
- 当事者
- 原告個人1名
被告国 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年10月15日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 原告は、平成9年10月24日、岡山郵便局に任期1日、予定雇用期間同年11月29日までの非常勤職員として雇用された者であり、予定雇用期間満了後も2ヶ月毎の雇用が繰り返され、平成12年5月29日に雇用期間を2ヶ月として再採用された。
原告は、同年6月1日、市公用車の運転手と口論になる事件を起こした(平成10年7月7日にも、原告は台車を女性職員の足にぶつけ注意した職員に対し暴言を浴びせた)ことから、被告は、予定雇用期間満了後は原告を再採用しないこととし、同月2日その旨原告に退職予告通知書を手渡したが、原告はこれを受け取らなかった。被告は、更に同月5日に原告の雇用を同年7月5日までとする通知書、同月13日に同年7月29日に退職となる旨の通知書を原告に交付した。原告は、同年7月29日、被告担当者から給与を受けるよう促されたがこれを拒否し、翌日から郵便局に赴いて就労の意思を示したが、被告はこれを拒否した。
原告は、主位的請求として、本件雇止めは解雇権の濫用として無効であり、労働契約上の従業員たる地位を有する地位を確認すること、予備的請求1として、仮に本件は公法上の任用であるとすれば、1日の任期は無効であり、本件採用は期限の定めのない任用となることから、本件雇止めは解雇権濫用法理の類推適用により無効であって、非常勤職員たる地位にあることを確認すること、予備的請求2として、本件雇止めが原告の任用継続の期待権を侵害したとして、その精神的苦痛に対する慰謝料100万円、総務課長等が「誓約書」「始末書」の作成を強要したことに対する慰謝料30万円の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件採用が私法上の雇用契約と解されるか
国公法上、条件付採用、臨時的任用が例外として規定されるほか、国家公務員の任用は期限の定めがないのが原則とされているが、人事院規則において非常勤職員等に関する特例が定められている。国家公務員の任期が原則として無期限とされた趣旨が、職員の身分を保障し、職務に専念させることに鑑みると、任期の定めを必要とする特段の事情、緊急・臨時的な必要性がある場合等を想定したものと解される。本件は、上記の本来想定された態様とは異なり、恒常的・継続的な定員不足を補うために日々雇用職員として原告を採用したものであって、その適法性に疑問が生じるところである。
しかしながら、一方で、国公法が職員の期限付き任用を禁じてはおらず、一定の要件の下で常勤職員についても期限付き任用を許容し、日々雇用職員の任用の更新及び任期満了による当然退職について定めていること、非常勤職員の採用は競争試験又は選考のいずれにもよらないで行うことができる旨定め、期限付き任用を前提とする規定が設けられていること等からすれば、日々雇用職員としての採用が違法であるとまではにわかに認定し難い上、仮に任用行為の瑕疵に当たるとしても、無効事由に当たるものとはいえない。
そうすると、本件採用は期限付き任用に係る非常勤職員としての公法上の任用としての効力を有するものというほかなく、この点に関する原告の主位的主張は理由がない。
2 本件雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されるか
本件期限付任用の内容は、職員の身分保障を妨げないものでなければならず、信義則や権利濫用が許されない旨の民法1条所定の法規制が及ぶものというべきであって、本件雇止めも解雇権濫用法理の類推適用の余地がある。
原告は期限付きの非常勤職員として採用されたものの、期間の定めは形式的なもので、更新拒絶の意思表示がない限り順次更新していくという暗黙の了承が双方にあったものと認められるが、行政処分においては私法上の契約関係と異なり当事者の合理的意思解釈によってその内容を定めることが予定されておらず、再雇用の継続により期限の定めのない非常勤職員としての任用に転化することは、国公法等の規定の趣旨を潜脱する結果となり許されないこと、期間の定めのある任用と定めのない任用は別個の任用行為とされていることから、明示的に期間の定めのない任用行為がない限り期間の定めのない任用関係が成立すると解することは困難である。しかしながら、それ故に、期間満了によって当然に任用関係が消滅し、あるいは被告の自由裁量によって更新拒絶をなし得るものではなく、更新拒絶が権利濫用に係るものでないことが必要である。而して、原告は市職員と諍いが生じた際に、大声で暴言を吐き、市役所における従前の暴言事件とも併せて、顧客である市役所職員との信頼関係を損ね、郵便局の職務の円滑な遂行を阻害し、また遅刻を重ねて職務を懈怠したものであり、これに対し、被告は予告解雇に相当する手続きをとって原告との任用関係を解消したものであって、本件雇止めは相当であるといわざるを得ない。そうると、原告の予備的請求1は理由がない。
3 本件雇止めが国賠法上の違法性を有するか
原告の予定雇用期間満了時における任用終了はやむを得ないものであり、被告が期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬものと認められる行為をしたというような特別の事情を認めるに足りる証拠はないから、原告の任用継続の期待権侵害に基づく慰謝料請求は理由がない。
4 原告に対する総務課長らの行為が国賠法上違法性を有するか
(1)総務課長らが原告に対して行った事情聴取はいずれも許容範囲内の行為であり、(2)誓約書や始末書の作成についても違法に強要したと評価できるものではなく、(3)退職予定日の変更についても、原告の権利を侵害するような行為ではないものと認められる。したがって、予備的請求2は理由がない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働法律旬報1552号38頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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