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トラック運転手脳出血後遺症事件【過労死・疾病】

事件の分類
過労死・疾病
事件名
トラック運転手脳出血後遺症事件【過労死・疾病】
事件番号
東京地裁 − 平成19年(ワ)第158号
当事者
原告個人1名

被告N運送株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2007年12月14日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
原告は、被告埼玉営業所に所属し、トラック運転の業務に従事していた者である。原告の通常の勤務態様(火曜日〜金曜日)は、午前3時過ぎに埼玉営業所を出発し、飯田市所在のパーキングエリアで、愛知県一宮市所在の本社営業所から来た空荷のトラック運転手と交代し、これを運転して同日午後1時頃埼玉営業所に戻り、空のケースを下ろして数キロ離れた駐車場にトラックを駐車するというものであった。なお、土曜日は直接本社営業所までトラックを運転して行き、火曜日早朝の出発に間に合うように埼玉営業所に戻ることとされていた。
 原告は、平成13年3月4日(日曜日)午前8時頃、上記トラック運転中、脳出血を発症し、入院治療したが後遺症が残り、労災保険で業務上と認定され、障害等級第2級の2の障害補償給付が支給された。原告は、業務のためトラックを走行中脳出血を発症し、上下肢機能全廃の後遺障害が残ったのは、被告による長時間労働を強いられたことによるものであり、これは被告による不法行為ないし安全配慮義務の不履行によるものであるとして、被告に対し損害賠償を請求した。
主文
判決要旨
自動車の運転、特に積載量10トン以上のトラックの運転は、もともと精神的緊張を伴うものである上、原告の従前業務は、平成13年1月30日から本件脳出血発症までの間、拘束時間が深夜から午後まで、1日当たり概ね12時間を超えて業務に従事していること、週末にも埼玉営業所と本社営業所との間を往復しなければならず、その際は大部分を高速道路ではなく積雪量の多い一般道を走行せざるを得なかったこと、埼玉営業所には運転手が原告以外に配属されておらず、業務の交代ができなかったこと、2月下旬には納入先のメーカーが繁忙期を迎えることから、原告は休日を返上して業務に従事しなければならなかったこと、同年2月27日ないし同年3月1日の間は、通常の業務に加え、病欠した者に代わり、本来睡眠時間に当てられる午後9時前後に駐車場から埼玉営業所までトラックを移動させるなどの、通常と異なる業務も行っていること、同年1月30日から本件脳出血発症までの間、24時間以上連続して休息したことはなかったことなどからすれば、原告の従前業務は相当程度の疲労を蓄積させるものであったというべきである。

 以上からすると、本件においては、原告は従前業務の過重労働により、慢性的な身体的疲労状態にあり、過労によるストレスも相当程度蓄積していたと考えられるところ、現に業務中に本件脳出血を発症していることも考え合わせると、これらの過労等が原告の脳動脈の血管壁の状態に悪影響を与え、破裂に至らしめ、本件脳出血が生じたと認めるのが相当である。なお、被告は、原告は高血圧であったにもかかわらず、精密検査及び治療を受けず、休日も会社のトラックを運転して以前の職場を訪れ飲酒するなど、自己管理を怠ったことによるものであり、業務との因果関係はないと主張するが、被告が健康診断の結果を原告に適切に通知していたと認めるに足りる証拠はなく、原告の高血圧につき自己管理を問題とする前提を欠くというえることなどからすれば、被告の主張は採用できない。

 原告の従前業務は、勤務時間が長時間にわたる上、業務内容も重いものであり、交代要員も存在しないなど過酷なものであったと認められるところ、被告は原告の業務が過重であったことを容易に認識し得たのであり、このような過重な業務が原因となって、原告が脳出血等の疾患を発症し、ひいては原告の生命・身体に危険が及ぶ可能性があることを予見し得たというべきである。そして、被告は、業務の量などを適切に調整するための措置として、原告の健康状態に配慮し、原告の担当業務や他の従業員の代替業務の負担を変更し、適宜休日を取らせるなどすることが著しく困難であったとの事情はないことが認められ、被告がその措置を講じていれば、原告は本件脳出血の発症を免れていたということができる。
 以上によれば、被告は、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき業務に違反したものとして、安全配慮義務違反により、原告に発生した損害について、債務不履行に基づく賠償義務を負うべきである。
適用法規・条文
民法415条
収録文献(出典)
平成20年版労働判例命令要旨集207頁
その他特記事項