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兵庫県総合警備保障会社事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
兵庫県総合警備保障会社事件
事件番号
神戸地裁尼崎支部 − 平成16年(ワ)第155号(本訴)、神戸地裁尼崎支部 − 平成16年(ワ)第415号(反訴)
当事者
原告・反訴被告 総合警備保障会社

被告・反訴原告 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2005年09月22日
判決決定区分
本訴=認容、反訴=一部却下・一部棄却(確定)
事件の概要
 原告は、総合警備保障業務等を行う株式会社であり、被告(昭和34年生)は平成13年3月19日から原告の従業員の地位にあった。原告と被告の当初の労働契約書によると、契約期間は同日から同年5月15日までとされており、続いて同月16日から平成14年5月15日までとなっていたが、同月16日から原告は契約期間を6ヶ月とする「タイムクルー」制度を採用したことから、次の契約は同年11月15日までとなった。

 被告が所属する警備隊の隊員は14名であり、女性は被告のみであった。被告は、原告の従業員から次のようなセクハラ被害を受けたと主張したため、原告は西近畿運営部長ら3名が被告から事情を聴取した。その際被告は、同僚からのセクハラやいじめなどを訴え、隊長を交替させるか、自分を他の事業所に異動させるかして欲しいと訴えた。被告が指摘したセクハラ行為の主なものは、被告の仕事中にほとんどの男性隊員がそばで着替えをする、被告が「今日は暑いですね。」と挨拶すると、「体を拭いてやるから裸になれ。」と言う、被告に「名前を呼ばれたら、股を広げてハイと返事をしろ。」と言う、被告と他の隊員とのミーティング中に「ミーティングなんかやめて奥のベッドでいいことしようや。」と言う、被告に「今さら子供まで産んでおいて、女として一通りのことが済んでいるのに。」などと言う、被告が着替えをする部屋にカーテンが設置されていないため外から丸見えである、などというものであった。また被告は、原告がセクハラに関して予防措置、是正措置を何らとらず、セクハラを訴えた被告に対し、新たな労働契約の期間を2ヶ月として提示する旨の報復措置をとったと主張して、これらの不法行為により精神的損害が生じたと主張した。

 これに対し原告は、調査した結果、セクハラ行為はなかったと、被告の主張をすべて否認し、被告の主張する隊長の交替、被告の異動はいずれも受け入れられないとした上で、労働組合とセクシャルハラスメントに関する協定書を締結し、従業員に対する広報活動を積極的に行うなど、その防止のための十分な措置を講じていると反論し、調査の中で、他の同僚が被告の言動に対し不満を抱き、被告が同僚と協調できないことが判明したため、新たな労働契約期間を2ヶ月としたもので、被告が主張するような報復措置ではないと主張した。その上で、原告は、契約の申出に対し被告が承認しない以上、被告は原告の従業員たる地位を有しないとして、このことを確認する旨の請求を行った。
 これに対し被告は、原告の従業員からセクハラ行為を受け、原告が何らセクハラ防止対策、是正措置をとらなかったことによって精神的苦痛を受けたとして、原告に対し300万円の慰謝料及び324万円の未払賃金を請求する反訴を提起した。
主文
1 被告が、原告の従業員たる地位を有しないことを確認する。

2 被告の反訴のうち、被告が原告の従業員たる地位を有することの確認を求める部分を却下する。

3 被告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
判決要旨
 被告の本人尋問の結果を客観的に裏付ける証拠は全く存在しない。証人の証言によると、原告においては、セクシャルハラスメント問題の重要性を充分理解していること、労働組合との間にセクシャルハラスメントの防止及び対応に関する協定書を結んでいること、従業員に対してもセクシャルハラスメント防止のために各種広報活動がとられていることが認められる。また、平成14年10月11日の初めての被告との話合いの際、被告の訴えの中にセクシャルハラスメントに関するものが含まれていたため、西近畿運営部長は、原告のセクシャルハラスメント相談の担当者の同席を求めている。そしてこれらに照らすと、被告本人尋問の結果のみで被告が主張するようなセクシャルハラスメントがあったとまでは認められず、その存否は不明であるといわざるを得ない。また、本件訴訟においては、被告がセクシャルハラスメントの被害を受けたことは被告が立証責任を負うべき事項であるから、その存否が不明であることの不利益は、被告が負うべきであるとせざるを得ない。

 被告の本人尋問の結果の中には、被告が、原告から自宅待機命令を命じられたとする部分があるが、そうであれば当然に指示されるべき自宅待機の期間、その間の給与の支給などに触れるところはなく、原告は被告との新しい契約を一貫して望んでいたのであるから、新しい契約の締結を保留した上で、自宅待機の期間、その間の給与の支給などについて何も述べずに被告に自宅待機を命じたとは解しがたい。この事実に照らすと、原告が、被告に対し、新たな労働契約について2ヶ月の期間を提示したことが不当であるとすることはできない。

 すなわち、被告が指摘するセクシャルハラスメントの事実は認めることができなかった一方、被告は隊長の交替か被告の異動に最後まで固執しており、更に被告と他の同僚との協調が図られていないことの相当部分は被告の責めに帰すべき事由によるとされてもやむを得ない状態であった。これに加えて、契約期間を2ヶ月にすることは、被告に対して何らかの具体的不利益を直ちに与えるわけではなく、仮に被告が2ヶ月の新しい労働契約に応じた場合、2ヶ月後には労働契約が更新されない可能性が高い状態であったとは、到底認めることができない。ましてや、原告の契約の提示が、被告のセクシャルハラスメントの訴えに対する報復的措置であったと認めるに足りる証拠はなく、これは原告の専権に属する人事管理面での判断に基づくものであって、権利濫用とすることもできない。そして、新しい労働契約の締結に関する原告の申込みの意思表示に対し、被告は相当期間内に承諾の意思表示をせず、結局原告と被告との間の労働契約は期間満了により終了し、新たな労働契約は成立しなかったとするのが相当である。結局、被告は原告の従業員たる地位を喪失しており、被告の未払賃金の請求も理由がない。
 原告においては、男女雇用機会均等法などを通じて企業に求められるセクシャルハラスメント防止のための措置として十分なものがとられているということができるから、原告がその予防義務に違反したとすることはできない。したがって、被告がセクシャルハラスメントを受けたこと、原告がこれに対する是正措置を講じなかったことを理由とする被告の主張を採用することはできない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例906号25頁
その他特記事項