判例データベース
A社大阪事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- A社大阪事件
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成15年(ワ)第6095号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社、個人4名 C、D、E、F - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年12月09日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 被告会社は、航空旅客の予約受付、案内及び航空券の発券等を目的とし、平成15年10月1日にA社を吸収合併した株式会社である。被告Cは平成13年6月27日にA社の代表取締役に就任した者、被告Dは同年8月1日付けでA社の統括部長代理として着任した者、被告Eは同年5月21日から平成14年4月1日までA社の総括部長兼総務部長の職にあった者、被告Fは同月5日から平成15年10月1日までの間A社の総務部長の職にあった者である。原告は、平成4年3月にA社に入社し、平成6年5月に一旦退職した後、平成12年12月1日にA社との間で雇用契約を締結した女性である。
平成13年11月にA社が原告に対し雇用契約更新のための雇用契約書案を提示したところ、原告は内容に承服せず、署名押印を断ったが、雇用契約が切れる同月30日の経過後もA社は雇用継続を認め、原告も勤務を続けた。その後原告は平成14年4月8日に欠勤し、同月10日以降出勤しないことから、A社は同年11月30日限りで期間満了により原告の雇用関係が終了したものとして扱った。
これに対し原告は、継続雇用の期待をもって本件雇用契約を締結したのであり、本件雇用契約は形式的には期間の定めのある雇用契約であったとしても、実質的には期間の定めのない雇用契約であり、本件雇止めは実質的には解雇に相当するものであるから、解雇権濫用の法理が適用され、合理的な理由がない限り無効であるところ、原告の担当する給与計算事務自体は継続性の強い業務であり、100名の契約オペレーターのうち1年間で雇止めをされた者は1人もいなかった上、A社は平成13年11月30日の経過後も原告に業務を継続させていることから、本件雇止めは解雇権濫用により無効であると主張した。また、原告は被告らから陰湿な嫌がらせを受けたことが原因で、平成13年4月10日に自律神経失調症の診断を受け、その後も治療を受け続けており、本件は業務上疾病による休業中の原告を雇止めしたものであるから、労働基準法19条の趣旨から無効であると主張した。原告は、こうした主張に立って、被告会社における雇用契約上の権利を有する地位の確認及び賃金の支払い並びに過重な残業、暴言や無視などの嫌がらせに対する慰謝料として被告各自に対し309万8430円をを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件雇止めの有効性
本件雇用契約は、その契約締結当初において、雇用期間を1年間とする期間を定めた雇用契約であったことは明らかである。原告は、A社は新たに更新手続を経ることなく、平成13年11月30日経過後も原告に業務を継続させており、同日経過後、本件雇用契約は期間の定めのない契約になったものと解すべきである旨主張するが、原告がこの更新の時期に新しい契約書を作成することを拒絶した理由は、専ら雇用契約書案の職務欄の記載内容に納得できなかったところにあり、雇用期間が1年とされていた点に異論があったわけではないこと、A社では契約社員の雇用期間は全員について1年間とされていたことが、それぞれ認められる。これらの事情を考えると、本件雇用契約は、平成13年12月1日以降も更新により継続されたが、その更新後の雇用期間は1年間であったと認められ、期間の定めのない雇用契約となったと認めることはできない。
A社の契約社員について、経験年数に応じて賃金額が定められていたが、このことをもって直ちに原告の雇用継続に対する期待利益に合理性があるということはできない。また、期間満了で雇用関係を終了した事例が。平成10年当時2名存在し、他方A社が原告に対して1年を超える期間の雇用を認める旨を示したことを認めるに足りる証拠は見当たらない。本件雇用契約締結の当初においては、原告の主な業務のうち給与計算業務については原告のみが担当していたものの、他の者が代替して行うことが困難な業務ではなかった。以上によれば、原告の担当業務の性質を考慮しても、原告が平成14年12月以降まで継続して勤務することが必要となるような業務を担当していたとは認められない。
以上の事情に加え、本件雇用契約は1度更新されたに過ぎないことを考慮すると、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていたとも、雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性があるとも認めるには足りないと考えられる。そうすると、本件雇止めに解雇権濫用法理を類推することはできず、原告とA社との間の雇用関係は、平成14年11月30日の経過をもって終了したものと認められる。
原告は、本件雇止めは労働基準法19条に違反する旨主張するが、そもそも本件雇止めについて解雇の法理を類推すべき理由は見当たらないのであるから、本件雇止めに同条を適用することは適当でないと考えられるし、また仮に本件雇止めについて同条の適用の余地があるとしても、原告がA社における業務のために自律神経失調症にかかったと認めるに足りる証拠はない。
2 原告に対する過重な労働の押し付けやいじめについて
原告は、被告Cが、原告の肉体的限界に何ら配慮することなく、担当外の業務を押し付けた旨主張するが、(1)原告が本件雇用契約締結の当初、A社から、30時間程度の残業が必要になるかもしれない旨を聞いており、その程度の残業は仕方がないと考えていたこと、(2)A社が、原告からの要請を受け入れて業務分担の見直しを行い、原告の残業時間は相当減少したこと、(3)A社が、原告の母の通院に配慮して、平成13年8月から原告の出勤時刻を午前9時から午前10時に変更したことが認められる。これらの事情を考慮すると、A社が原告の事情に配慮していたことが認められ、原告の肉体的限界に配慮することなく業務を押し付けたという事実があったことを認めるには足りない。
被告Eの、原告らが必死で仕事をしている横で野球中継を見たこと、被告Dの、現金帳簿と金庫の残高が合わなかったことで原告に謝らせ、経理を手伝った原告に対し「なぜ原告が経理を担当しているのか」等の暴言を吐き、定例会議に参加させないこともあったこと、被告Fの、原告に経理の仕事を押し付け、「決算をしないなら責任をとって辞任しろ」「社長に言いつける」と怒鳴り、被告Cに告げ口の電話をしたことについては、事実を認める証拠がないか、仮に事実があったからといって、直ちに損害賠償責任を生じさせるものとまで認めることはできない。以上によれば、被告らが原告に対する過重な労働の押し付けやいじめについて損害賠償義務を負うものとは認められない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1934号3頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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