判例データベース
S学院非常勤講師雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- S学院非常勤講師雇止事件
- 事件番号
- 仙台地裁 − 昭和49年(ワ)第757号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 学校法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1986年08月07日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 被告は、S学院(幼稚園、小・中学校、高等学校及び専攻科)を設置・経営する学校法人であり、原告は、昭和47年4月1日被告に理科の非常勤講師として採用された女性である。原告は、昭和46年度に受験した教員採用試験がいずれも不合格となり、就職先を探していたところ、被告の専任教師の紹介により被告理事長と面接したが、その際被告理事長は専任教師の可能性はないこと、非常勤講師は1年限りの契約で身分が不安定であることを原告に通告した。その際原告が自活の必要性から専任でなくても良いからとにかく教師になりたいと訴えたこと、専任教師が出産のため1年間休職することとなったことから、被告は昭和47年4月1日から昭和48年3月20日まで原告を非常勤講師として委嘱した。その後原告は自活の必要から非常勤講師の継続を懇願したため、被告は昭和48年度も原告を雇用することとし、昭和49年3月20日まで非常勤講師として委嘱したが、その際他に就職先を探すよう示唆した。
被告は、昭和48年12月17日に、原告に対し翌年3月で契約が終了する旨通告し、昭和49年3月21日以降就労を拒否した。これに対し原告は、被告に対し雇用契約に基づく権利を有することの確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 契約当初における期間の定めの有無
原告の採用面接当時、被告は理科の専任教師を必要と考えておらず、非常勤講師であれば採用しても良いと考えていたところ、原告は非常勤講師として採用されることを十分に了解して非常勤講師として採用されたものであるから、1年の期間の定めをつけられたものであることは当然に理解できたはずであるし、交付された辞令にも期間が明示されていて、この点についての説明も受けていたものであり、しかも原告は昭和47年度に専任講師になるべく他に求職活動もしていたのである。したがって、採用内定通知書には期間の定めの記載がなかったものの、本件雇用契約は1年の期間の定めのある契約であったことが認められる。
2 雇用契約更新後における期間の定めの有無
昭和48年度も被告は原告を雇用しているが、被告としては次年度の授業計画から原告を外していたところ、原告から雇用の継続を懇願されたため、何とかやりくりをして非常勤講師として継続して雇用することとしたもので、原告に対しては、他に専任教師の就職口を探すことを示唆し、期間を明示した辞令を交付していたものである。そして被告就業規則には更新に関して「ただし、契約の更新を妨げない。」と規定しているにすぎないのであって、更新すれば当然に期間の定めのない契約となることもなかった。したがって、本件雇用契約が期間の定めのない契約として更新されたとは到底いえず、更新後も1年の期間の定めがあったものと認められる。
3 期間の定めの有効性
確かに、期間の定めに何ら社会的な合理性がなく、その定めが単に解雇の制限を初めとする労働保護法規を潜脱する意図のみに基づく場合には、期間の定め自体を無効とすべきか否かを検討する余地があるというべきである。また原告主張の通り教員の身分は保障されるべきである(教育基本法6条2項)し、これは非常勤講師の場合であっても基本的には同様であると解される。
しかし、そもそも教員であってもその雇用期間を定めることを禁止する法令は存在せず、一部専門の分野においては非常勤講師によってした方がかえって教育の成果を上げることができる場合もあること、特に私立学校の場合には、年度毎に入学者又は在学者の人数に大幅な増減が生じやすく、国による補助金や生徒の保護者による負担にも限度があるところから、非常勤講師の一時的雇用がどうしても必要とされていること、これにより教科内容の変動等にも適切に対処できることとなっていることが認められるのであって、これらを考え併せると、教育上の問題はあるにしても、期間の定めのある非常勤講師の採用自体は社会的に容認できるものであって、詰まるところ、非常勤講師をどれだけ採用するかは、個別的事情により各学校の合理的な裁量に委ねられているものとしなければならない。したがって、このような期間の定めが当然に無効となるということはできない。
本件においては、被告は非常勤講師を右のような趣旨のもとに採用していたものであり、実際原告は入学者の多数及び教師の休職の対策として一時的に採用されたものであるし、その雇用契約の更新はむしろ原告の事情を汲んで行われたものであって、期間を定めたことが、ことさらに労働保護法規の適用を免れようとしたり、あるいは教員の身分を不安定ならしめ教育の継続性を分断しようという意図のもとになされたものでないことは明白である。また、被告は原告を採用したときにおいても、非常勤講師を無理に押しつけたわけではなく、逆に原告において敢えて望んで採用されたものであるから、被告が本件において非常勤講師として原告を採用したことが合理的な裁量の範囲を逸脱しているものとは解し難いし、雇用契約の期間を定めたことが強行法規又は公序良俗に反して無効であるということもできない。
4 解雇権法理の類推適用について
期間の定めのある雇用契約であっても、期間の満了毎に当然更新され、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にある場合には、期間満了を理由とする雇止めの意思表示は実質的に解雇の意思表示に当たり、その実質に鑑み、その効力の判断に当たっては解雇に関する法理を類推適用すべきであるし、また、労働者が右契約の更新、継続を当然のこととして期待、信頼してきたという相互関係のもとに労働契約が存続、維持されてきた場合には、更新拒絶を正当とすべき特段の事情がない限り、期間満了を理由とする雇止めをすることは信義則上からも許されないものというべきである。
これを本件について見るに、原告自身の更新は1回だけであり、被告における非常勤講師の契約更新の状況が一部の特殊事情のある場合を除いて当然更新といったものではなかったし、雇用期間の定めのない専任教師とそうでない非常勤講師との仕事の種類・内容には大きな差異があり、非常勤講師から専任教師への登用の慣行・制度もなかった。また、原告の採用時から雇止めされるまでの間、被告が原告に本件雇用契約の更新を期待させる言動をとったことを認めるに足りる証拠はなく、むしろ更新の際に、他の職場を探すようにと申し渡していたのであって、以上の事実に照らせば、本件雇用契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態のものであったとは到底いえないし、原告が非常勤講師としてであっても契約の更新を期待しうる客観的状況にもなかったことは明白である。したがって、本件雇用契約において、被告が原告に対し雇止めの意思表示をしても、解雇に関する法理を類推適用したり、信義則を働かせたりする余地はない。
以上の通りであるから、本件雇用契約は、昭和49年3月20日の期間満了により当然に終了したものというべきである。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例482号42頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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