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O医科大学電話交換手配転拒否事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- O医科大学電話交換手配転拒否事件
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成16年(ワ)第4235号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 学校法人(医科大学) - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年09月01日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、医科大学その他の教育施設を設置することを目的とする学校法人であり、原告は、昭和48年9月に被告に採用され、以降30年にわたり電話交換業務に従事してきた女性である。
被告は、平成8年から経費節減策として、業務の外注化を推し進め、その一環として電話交換業務についても外注委託する方針を具体化し始めた。被告は平成14年9月、同16年4月より電話交換業務をすべて外注委託し、原告を含む電話交換手を配転するというスケジュールを示した。原告は平成14年12月頃地域労組に加入し、同労組と被告は同月以降原告の配転問題について団体交渉が重ねられた。一方被告は平成15年5月から電話交換手に対して配転先についてのヒアリングを実施したが、原告は配転自体に応じない意思を表明していたため、ヒアリングに応じなかった。平成16年3月16日の団交で、労組が被告に対し、原告の具体的な配転先を示すよう申し入れたことを受けて、同月23日、被告が同労組と原告に対し、被告の子会社への出向を打診したところ、原告が承諾しなかったため、同年4月1日付けで原告を物流センターの事務員に配転した。原告は異議を留めて異動したが、本件配転を不服として、物流センター事務員として勤務する義務のないことの確認を求めた。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 職種限定の合意の有無
(1)原告は、被告に技能員として採用され、以後本件配転までの30年にわたり電話交換業務に従事していたこと、(2)原告の採用当時、電話交換業務を行うためには一定の資格が必要であったこと、(3)本件配転に至るまでに他の職種に配転された電話交換手はいなかったこと、(4)発声が困難となったことから退職した電話交換手がいたことが認められる。しかし被告の就業規則には、従業員の職種変更を命ずることができる旨の規定があったものであり、原告は長期雇用を前提として採用されたというべきであるが、当該業務に高度の専門性が存するなど特段の事情の存しない限り、使用者において職種を限定して労働者を採用する必要性は見出し難い。そして、電話交換手の中には資格を有しないまま被告に採用された者もいる上、その後資格がなくても電話交換業務を行うことができるようになったこと、被告総務課長の陳述書にも電話交換業務は比較的画一的・単純な業務である旨の記載があることに照らせば、高度の専門性を有する業務であるということはできない。また退職した電話交換手は、配転できずに退職したのではなく、自主的に退職したことが認められる。そうすると、前記(1)ないし(4)の各事実をもって、原被告間に原告を電話交換手以外の職種に配転しない旨の職種限定の合意があったと認めることはできない。
2 配転命令権の濫用の成否
被告においては、従業員の職種変更を命ずることができる旨の就業規則上の規定があったのであるから、原告の個別の同意がなくとも、業務上の必要に応じて、職種変更(配転)を命ずることができるというべきであり、権利の濫用は許されないものの、本件配転が原告に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど、特段の事情の存する場合でない限りは、本件配転は権利の濫用になるものではないというべきである。
被告は、平成8年度から3ヵ年にわたって赤字となっていた上、平成14年度も赤字となっており、収支改善のための方策を採る必要があったというべきである。そして電話交換業務の外部委託化により、被告は年間1800万円の人件費の削減を見込んでいたものであり、被告が電話交換業務を外部委託化したことについては、業務上の必要性が認められるというべきである。原告は配転に反対したため、被告は原告から配転についての希望聴取もできず、他の電話交換手の配転先が決まった後、本件配転の直前に原告の加入する労組から具体的な配転先を示すよう求められたが、その時点では物流センター事務員への配転と出向以外は原告の配転先が存しなかったこと、出向を拒絶した原告の意を受けて、原告を物流センター事務員に配転したことが認められるのであって、被告においては、原告を物流センター事務員に配転する業務上の必要性が存したと認められる。
原告は、被告に採用されて以後、約30年にわたって電話交換業務に従事していたが、本件配転により物流センター事務員となり、薬剤の搬送作業等を担当し、現在は医療材料商品の袋詰め作業等を担当しているのであって、従前の業務との関連性は見出し難く、電話交換手としての技能を生かすことのできる業務内容であるともいい難い。しかしながら、以上の事実をもって、直ちに原告に不利益を負わせるものということはできない。原告は本件配転後、モートン病を発症したのであるが、被告はこれに配慮して原告の業務内容を変更したことが認められる。そして原告は、本件配転によって業務内容は変更されたものの、勤務時間、給与等の労働条件は変更されなかったのであって、以上に照らせば、本件配転が原告に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど、権利の濫用となるような特段の事情があるということはできない。加えて、原告は消極的とはいえ、平成15年5月の団体交渉申入書で明確に交渉事項にするまでは配転に同意していたということができ、この点からも本件配転が権利の濫用に当たるということはできない。
以上によれば、本件配転は業務上の必要性に基づくものであって、配転命令権の濫用に当たるということはできない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例906号70頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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