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S航空会社変更解約告知事件

事件の分類
解雇
事件名
S航空会社変更解約告知事件
事件番号
当事者
その他債権者 個人16名
その他債務者 航空株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1995年04月13日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者は、会社再建策として、早期退職募集により141名全員を退職させ、新たに地上職は31名を再雇用、エアホステスは新規にスカンジナビア3カ国の支社雇用とする方針を打ち出した。再雇用の条件は、(1)契約期間を1年とする、(2)労働時間を週36.5時間から、空港部門については週35時間、それ以外は週40時間とする、(3)賃金を年棒制棒制として職務内容と業績によって毎年見直す、(4)退職金は職務に応じた退職金支給基準にする、(5)年休は労働基準法に基づく最低基準とするというものであった。これにはエアホステス全員と地上職111名中86名が早期退職届を提出し、債務者はその中から25名を再雇用し、早期退職に応じなかった25名の募集期間を延長したが、その全員が勧奨に応じなかったので、債務者は解雇予告とともに自宅待機を命じ、最終的には9名の解雇予告を撤回した。そこで解雇予告の撤回を受けなかった女性地上職を含む16名は、解雇の無効を主張して仮処分の申請を行った。
主文
1 債権者らの本件申立てをいずれも却下する。

2 訴訟費用は債権者らの負担とする。
判決要旨
 債務者と債権者らとの雇用契約では、職務及び勤務場所が特定されており、賃金、労働時間などが重要な雇用条件になっていたのであるから、合理化案の実施により、職務、勤務場所、賃金及び労働時間の変更を行うためには、債権者らの同意を得ることが必要で、一方的にこれらを変更することはできないと解される。しかし、債権者らの職務、勤務場所、賃金、労働時間等の労働条件の変更が会社運営にとって必要不可欠であり、その必要性が債権者らが受ける不利益を上回っていて、労働条件の変更を伴う新規契約締結の申し込みに応じない場合の解雇がやむを得ないものと認められ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときは、債務者は新契約締結の申し込みに応じない労働者を解雇することができる。世界的不況やヨーロッパ域内の航空規制緩和などで航空部門の経営悪化が激しく、年々赤字が増大していく一方、日本支社も乗客数減と航空券の単価の低落が急激に進んで全面的な人員整理・組織再編が不可欠になったことから、本件合理化案を実現する上では、本件労働条件の変更には高度の必要性が認められる。

 これに対し、債権者らが受ける不利益は、地上職の新賃金(年棒)は従来の賃金体系による月例給に12月を乗じた金額をすべてが下回るものではないし、雇用契約終了に伴う代償措置として、規定退職金に加算して相当額の早期退職割増金支給の提案を行ったことも考えると、債務者にとっての高度の必要性を上回る不利益があったとは認められない。

 債務者が、職務、勤務場所、賃金及び労働時間などの労働条件の変更を伴う再雇用契約の締結を申し入れたことは、業務運営にとって必要不可欠であり、その必要性は変更によって受ける債権者らの不利益を上回っていて、当時の事情では解雇はやむを得ないものであり、かつ解雇を回避するための努力が十分に尽くされていたものと認めるのが相当であるから、本件変更解約告知は有効である。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
その他特記事項
本件は即時抗告され、本訴も提起されたが、1996年2月7日、労働者全員の解雇撤回・職場復帰を内容とする和解が成立した。