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M美容院美容師解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- M美容院美容師解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 昭和41年(ヨ)第2316号
- 当事者
- その他申請人 個人1名
その他被申請人 美容院経営者 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1968年07月18日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 被申請人は、マーガレット美容院の名称で数名の美容師を雇って美容院を経営しており、一方申請人は昭和41年3月、被申請人に美容師として雇用された女性であり、住み込み勤務をしていた。
被申請人は、申請人が客に対する挨拶を欠くことが多く、すべてにつき横柄な態度をとって客に不快を感じさせることが屡々あったこと、注意を与えてもこれに著しく不満げな態度を見せること、見習生を指導する立場でありながら見習生から嫌悪され、職場の雰囲気を暗くし、作業能率を低下させたこと、申請人は毎日のように深夜帰宅し、就寝中の他の従業員に迷惑をかけ、時には無断外泊をして作業時間に遅れたことがあったこと、食事について不平不満を述べ、食事の用意をしている被申請人や見習生に著しい不快感を与えたこと、当時15歳の見習生に対し、些細なことで激怒し、平手で同女の顔面を数回殴りつけたこと等の事実があったことから、被申請人は、昭和41年4月27日に申請人に対し解雇の意思表示をした。
これに対し申請人は、指摘された事実の多くを否定するとともに、仮に解雇事由として列挙された事実があったとしても、なお申請人を解雇しなければならないほどの決定的理由は見出せず、十分な訓戒と適切な指導をすれば改めることのできる事柄ばかりであり、いきなり解雇というのは余りにも短兵急で、申請人の行為とつりあいがとれないとして、解雇権の濫用による解雇の無効と賃金の支払いを主張した。 - 主文
- 本件申請を却下する。
訴訟費用は申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 申請人は、美容師法で器具を清潔に保つことと規定されていることを理解しているにも拘らず、作業を手際よくするため屡々クリップを口にくわえ、被申請人に注意されても改めず、一部の客から苦情が出されたこと、見習生が間違ってビンを差し出したりすると手を払いのけることが2,3回あったこと、申請人は深夜に帰宅することがあり、就寝中の者の安眠が妨げられたほか、無断外泊により帰宅が開店時間に間に合わないことがあったこと、見習生の顔面を殴打し精神的に強い打撃を与えたこと等の事実が認められる。これらの行為は、顧客や従業員に不快の念を起こさせたこと、見習生を畏怖させ職場の雰囲気に著しい悪影響を及ぼしたこと、同僚の私生活上の平穏を害したこと、開店時間に遅れたことは従業員としての職責に著しく反したものであること、殴打された見習生に深刻な精神的打撃を与え、従業員間の協調に亀裂を生じさせたことが認められる。ところで、申請人らの仕事は顧客に対する格別のサービスが要求される他、美容院が家内工業的小企業であり、従業員は未婚の女性ばかりで1人を除いて住み込みであるという特殊な状況にあることから、従業員間の融和協調がとりわけ重要であるところ、一連の申請人の行為は非難されてもやむを得ないというべきものである。
一方、東京都においては美容師の求人数は求職者数をかなり上回っており、定着率からみても美容業界の人手不足が極めて深刻であることが窺われる。このような事情に徴すると、美容師が解雇その他の事由による雇用契約の終了によって受けるかも知れない打撃は、他の一般労働者の場合に比してはるかに少ないというべきであろう。とすれば、解雇権乱用の法理が解雇には正当事由を要するとする説と同様労働者保護の観点から構成されるものである以上、この法理を適用するに際し、右のような事情にある本件の場合は他の一般労働者の場合と同列に論ずることはできないというべきである。
解雇事由として認められる事実そのものは大体において些細なことで、懲戒解雇もやむを得ないという程悪質なものではないけれども、従業員間の融和協調に好ましからぬものをもたらした結果、1名を除いて申請人と共に働くことを喜ばない空気があり、特に申請人解雇後にはもし申請人が復職するならば3名が退職したいとの意思を被申請人に表示したことが認められるが、これはマーガレット美容院のように小規模の企業で従業員の協調が重視されるところにおいては看過し得ないことである。そして被申請人がこの際申請人を解雇することも止むなしとしたのも充分理解し得るところであって,他に被申請人が申請人を解雇するにつきその動機に格別不当な点があるとか、或いは信義則にもとるとかの点が見当たらない以上、申請人の権利乱用の主張は採用し難い。以上の通り本件解雇は被申請人の権限に基づく正当なものであるとの結論に達せざるを得ない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働関係民事判例集19巻4号831頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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