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K航空客室乗務員雇止め事件

事件の分類
雇止め
事件名
K航空客室乗務員雇止め事件
事件番号
東京地裁 − 平成10年(ワ)第13608号
当事者
原告 個人12名(女性9名、男性3名)
被告 航空会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2000年03月30日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、オーストラリアに本店を置く国際航空運送業等を営む外国株式会社であり、東京都に日本支社を有している。被告が雇用する日本人には、オーストラリア本社で管理されている者(オーストラリアベース客室乗務員)と日本支社で管理されている者(日本ベース客室乗務員)がおり、前者は期間の定めのない雇用契約を、後者もかつてはすべて期間の定めのない雇用契約を締結していた。日本ベース客室乗務員である原告Aら6名(原告A等)は、昭和62年8月に被告に雇用され、オーストラリアベース客室乗務員として雇用されたGら6名(原告G等)は、平成3年9月から平成5年4月にかけて順次日本ベース客室乗務員に移り、すべて契約社員として1年契約で更新を続けていたところ、平成9年から10年にかけて雇用契約期間満了に雇止めされた。

 これに対し原告らは、本件雇用契約は1年ごとに、「会社の利益を妨げる行為をすること」又は「医学的に支障がある」ことを解除条件とし、これに該当する事実がない限り雇用契約が継続することを前提にしており、原告らは正社員と全く同様の扱いを受けていたから、本件雇止めについては、解雇に関する法理が適用されるものと解すべきであって、仮に1年の有期契約であるとしても、原告らにおいて契約期間満了後も雇用契約を継続すべきものと期待することに合理性があるから、解雇の法理が類推適用されるべきであると主張した。その上で、被告は未曾有の利益を出していることから、本件解雇は合理性がなく無効であるとして、原告らの従業員の地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
判決要旨
 被告は昭和62年9月に原告A等との間で5年を超さない期間を契約期間として日本ベース客室乗務員として雇用する契約を締結した。この契約は平成4年10,11月には期間満了により失効するはずであったところ、組合交渉の結果、原告A等との雇用契約を更新することになり、「会社の利益を妨げるようなことをすること」及び「医学的な支障があること」の要件に当てはまらない限り、原告A等の雇用契約を契約期間1年として勤務成績が良好である限り5年間にわたって毎年更新することとした。しかし平成9年以降の更新が当然に予定されていたということはできないのであり、そうすると被告が同原告らとの間で締結した雇用契約は期間の定めのある契約であるというべきである。

 原告G等は、オーストラリアベースから日本ベースに移るに当たって一旦被告を退職し、改めて日本ベース客室乗務員として被告に契約社員として雇用されたものと認められる。そうすると、原告G等がオーストラリアベースに配属されていたときに被告との間で締結していた雇用契約は、原告G等が日本ベースに移った際には終了していたというべきであり、被告との間に成立した雇用契約とは、被告は平成4年11月又は平成5年3月に契約期間を1年として雇用契約を締結するが、それ以降は「勤務成績が良好でないことをすること」という要件に当てはまらない限り平成8年又は9年まで毎年更新を繰り返すことを合意したものと認められる。しかしその合意においてそれ以降の更新が当然に予定されていたとまでは認めることはできないから、被告が原告G等との間で締結した雇用契約は期間の定めのある契約であるというべきである。以上によれば、被告が原告らとの間で締結した雇用契約は、期間の定めのある契約であるというべきであるから、その雇用契約の終了に当たって当然に解雇の法理が適用されるということはできない。

 期間の定めのある雇用契約において被用者が雇用期間の満了後も雇用関係の継続を期待することにある程度の合理性が認められる場合には、そのような契約当事者間における信義則を媒介として、契約期間満了後の新契約の締結拒否(雇止め)について解雇に関する法理を類推適用すべきであると解される。

 本件において被告は、昭和62年9月に原告A等との間で5年を超さない期間を契約期間としてそれぞれ日本ベース客室乗務員として雇用する契約を締結したが、契約更新についての合意において平成9年以降の更新が当然に予定されていたということはできないのであり、原告G等との間で成立した雇用契約においても平成9年又は10年以降の更新が当然に予定されていたということはできないのであって、そのような雇用契約の内容に照らせば、原告らの主張に係る契約継続を前提にする諸事情をすべて勘案したとしても、原告らが被告との間で締結した雇用契約の契約期間の満了日である平成9年11月20日又は平成10年4月18日が経過した後も被告との間の雇用関係の継続を期待することに合理性があるということはできない。したがって、本件雇止めに当たって解雇の法理を類推適用することはできない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例784号18頁
その他特記事項
本件は控訴された。