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飲料製造会社配転拒否事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- 飲料製造会社配転拒否事件
- 事件番号
- 札幌地裁 − 平成9年(ヨ)第219号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1997年07月23日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 債務者は、札幌に本社を置くほか、4支社、2工場、51営業所を有し、飲料製造業を営んでいる会社であり、債権者は、昭和49年4月から債務者に雇用されて以来道東支社帯広工場で勤務していた。
債務者は、経営合理化の一環として、平成9年度に旭川工場を本社工場へ統合することを機に人員配置を行うこととし、平成8年10月頃工場の統廃合について組合に申し入れた上、同年11月に帯広工場従業員全員に対し個別面談を行った。債権者は同月債務者に対して家族状況届を提出したが、その中では家族及び両親の健康状況について「普通」と記載していた。債務者は帯広工場から本社工場への異動対象者を17人のブレンド作業経験者から経験年数等の基準に従って人選したところ、17人中5人は他の要件は満たしているものの協調性に欠けるとして異動対象者から外し、債権者ら4名を人選した。債務者は平成9年1月22日、債権者に対し札幌所在の本社工場への転勤を内示し、同年3月17日までに転勤するよう通告したが、債権者はこれを拒否した。しかし債権者は本件転勤命令を拒否し続けると、懲戒解雇等より重大な不利益を被るおそれがあると判断し、同年4月28日本社工場に単身赴任した。
これについて債権者は、労働契約上明示はないものの、勤務場所は道東支社帯広工場であることが暗黙の合意になっており、管理職を除いた一般従業員は同意がない限り勤務場所を変更しないという企業内慣行が存在したこと、債権者は妻、長女、二女と同居し、隣接地で生活する債権者の両親の面倒をみてきたところ、長女は鬱病で治療を続け、二女は脳炎による後遺症のため学校では教師とのマンツーマン教育を受け、両親とも体調が悪く債権者が面倒をみなければならないことを挙げ、かかる債権者の生活環境からみて、本件転勤命令によって債権者とその家庭が被る不利益の程度は、通常転勤により受忍すべき限度を著しく超えているとして、帯広工場で引き続き勤務することを求めた。 - 主文
- 1 債権者が、債務者の道東支社帯広工場を勤務場所とする労働契約上の地位を有することを仮に定める。
2 申立費用は、債務者の負担とする。 - 判決要旨
- 使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転居を伴う転勤は労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えることからすれば、使用者の転勤命令は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されない。しかし、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。
これを本件についてみると、本件転勤命令は、債務者旭川工場の本社工場への統廃合に伴い、人員配置を行う必要が生じたことから出されたものであり、業務上の必要性があると認められる。また人選の基準において特に不合理な点があるとは認められない。
債権者は、妻、長女、二女と同居しているところ、長女については躁鬱病により同一病院で経過観察することが望ましい状態にあり、二女については脳炎の後遺症によって精神運動発達遅延の状況にあり、定期的にフォローすることが必要な状態であるうえ、隣接地に居住する両親の体調がいずれも不良であって家業の農業を十分に営むことができないため債権者が実質上面倒をみている状態にあることからすると、債権者が一家で札幌に転居することは困難であり、また、債権者が単身赴任することは、債権者の妻が、長女や二女のみならず債権者の両親の面倒までを1人で見なければならなくなることを意味し、債権者の妻に過重な負担を課すことになり、単身赴任のため種々の方策がとられているとはいえ、これまた困難であると認められる。それに加えて、帯広工場には協調性という付随的要件には欠けるが、その他の要件を満たす者が他に5人もいることを考慮すると、これらの者の中から転勤候補者を選考し、債権者の転勤を避けることも十分可能であったと認められるから、債務者は異動対象者の人選を誤ったといわざるを得ず、債権者を札幌へ異動させることは、債権者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるというべきである。なお債権者は、右のような家庭状況を転勤の内示を受けるまで債務者に申告せず、却って長女、二女及び両親に何らの問題もないかのごとき家庭状況届を提出し、債務者をして転勤の人選を誤らせており、その対応には遺憾な点が存するが、結局本件転勤命令が出される1ヶ月以上前には債務者に対し家庭状況を申告し、転勤には応じ難い旨伝えていることを考慮すると、債権者の右対応によって右認定が左右されるものではない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例723号62頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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