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Nセンター雇止控訴事件

事件の分類
雇止め
事件名
Nセンター雇止控訴事件
事件番号
東京高裁 - 平成15年(ネ)第5943号、東京高裁 - 平成16年(ネ)第597号
当事者
控訴人・附帯被控訴人 Nセンター
被控訴人・附帯控訴人 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2005年01月26日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被控訴人(附帯控訴人)は英国人女性で、平成8年7月より控訴人(附帯被控訴人)に雇用されていた。控訴人・被控訴人間の初期契約は平成8年7月1日から平成9年6月30日までで、同年6月1日までにいずれからも異議がない限り同契約は自動更新されることとされ、本契約はその後自動更新され、控訴人の平成14年6月末日をもって雇用契約を終了する旨の本件通知までは、両者の間で契約書は1度も作成されず、更新手続きも一切行われなかった。

 被控訴人は、平成14年2月に第3子を出産し、同年4月12日から平成15年2月14日まで育児休業を取得する旨控訴人に申し出たところ、控訴人は同年3月14日付けの書面で、本件雇用契約は1年間の有期契約なので育児介護休業法の適用はないこと、雇用契約は同年6月末で終了し、以後更新しないこと、それまでの間被控訴人に出勤は求めないが給料は引き続き支払うことの回答を行った。そこで被控訴人は育児休業を断念して出勤したところ、机もパソコンもない状態であり、雇用関係について代理人を通じて話し合いが持たれたが合意に至らず、控訴人は同年6月末日をもって雇用契約を終了させる旨書面において雇止めを通知した。

 被控訴人は、本件雇用契約は期間の定めのない契約であって、本件雇止めは解雇権の濫用に当たり無効であること、被控訴人の育児休業の申し出を控訴人が拒否したことは不法行為に当たることを主張して、労働契約上の権利の確認、解雇後の賃金・賞与等の支払い及び不法行為に基づく損害賠償600万円を請求した。

 第1審では、本件雇用契約は初期契約が更新された平成9年7月1日以降は、期間の定めのない労働契約として存続しており、本件解雇は整理解雇に当たるところ、十分な解雇回避努力が尽くされていないとして、解雇権濫用の法理を適用し、本件雇止めを無効としたほか、被控訴人は育児介護休業法2条1号の「労働者」に該当するとし、解雇後の賃金と損害賠償50万円の支払いを命じた。これに対し控訴人は、本件雇用契約は1年間の期間満了によって終了しているとして控訴したほか、被控訴人も損害賠償額を不服として附帯控訴した。
主文
本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は被告の、附帯控訴費用は原告の各負担とする。
判決要旨
 当裁判所も、原告の本件各請求中、(1)原告が被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、(2)平成14年7月1日以降の賃金及び賞与として、同年7月16日から本判決確定に至るまで、毎月16日に42万1500円、毎年3月16日に21万0750円、毎年6月16日に42万1500円及び毎年12月16日に105万3750円等の支払いを求める限度で、及び(3)不法行為に基づく損害として50万円等の支払いを求める限度でいずれも理由があるが、その余の請求は理由がないと判断する。

 平成9年7月1日に更新された後の契約において初期契約と同様の1年の期間の定めが存続するかどうかについて判断するに当たっては、初期契約に期間の定めが設定された趣旨、原告の勤務内容、他の同種の労働者の契約の内容、更新手続きの実態等の諸般の事情を総合して、契約当事者の意思を合理的に解釈すべきである。そして本件初期契約においては、原・被告双方は、初期契約の手続きに当たり、本件契約更新条項により更新される更新後の契約についても1年間の期間の定めがあるものと了解していたものと解するのが最も自然であり合理的である。また、雇用に関する民法の規定が期間の定めのある労働契約を適法なものと認めている上、これを修正する特別法は存在しないから、適法な期間の定めのある労働契約が反復継続したとの事実により、期間の定めのない労働契約に変化するということはできないというべきである。したがって、本件労働契約は、本件通知がされた平成14年3月当時、平成13年7月1日から平成14年6月30日までの期間の定めのあるものとしてその効力を有していたものと解するのが相当である。

 本件通知はいわゆる雇止めの意思表示であるところ、これがなされた平成14年3月当時、本件労働契約は、平成13年7月1日から平成14年6月30日までの期間の定めのあるものとしてその効力を有していたものと解するのが相当であるが、期間の定めはあるが正規職員としての労働契約が6年間にわたり反復継続されてきた事実関係の下において、被用者において期間満了後も使用者が雇用を継続すべきものと期待することに合理性が認められる場合には、雇止めの意思表示により期間の満了をもって当然に労働契約が終了するものと解すべきではなく、その雇止めについては、解雇の法理が類推適用されるものと解すべきである。被告は、原告以外の正規職員との間においては毎年の契約更新につき契約書を作成する手続きをしていたが、原告との間においては、5回の契約更新のいずれについても書面及び口頭による更新手続きをしたことがなかった上、初期契約の更新時から本件通知までの間、本件労働契約に期間の定めがあることを確認させる等の措置を講じたことが一切なく、原告は2年連続して昇給し、平成13年には自ら米国で研修を受けていること、本件通知は原告が育児休業を請求したのに対し、被告がこれを拒絶したことに端を発するものであることなどに照らせば、本件通知の当時、原告が平成14年7月1日以降も被告に採用され続けるものと期待したことには合理性があるものと認めるのが相当である。したがって、本件労働契約は、本件通知(雇止め)により平成14年6月30日の経過をもって当然に終了したものと認めることはできず、雇止めの意思表示の効力について解雇に関する法理が類推適用され、解雇であれば解雇権の濫用、信義則違反などに該当して解雇無効とされるような事実関係の下に本件通知がされたものか否かを判断すべきこととなる。
 育児休業法2条1号は「期間を定めて雇用される」労働者は、育児休業の権利を有する労働者には含まれない旨規定するところ、同法の趣旨に照らせば、同法の適用から排除される労働者の範囲は限定的に解すべきであるから、労働契約の形式上期間を定めて雇用されているものであっても、当該契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となっている場合には、当該労働者は「期間を定めて雇用される」労働者には該当しないと解するのが相当である。そして、当該契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっているか否かは、当該労働契約における労働者の地位、継続雇用を期待させる事業主の言動等の当事者の態様、更新の回数・更新手続きの態様等の事情を総合考慮して判断すべきである。これを本件について判断するに、本件労働契約については、業務内容が恒常的なものであって臨時的なものと認めることはできず、原告が被告からの継続雇用を期待することが合理的な状況にあり、更新が5回に及びその都度の手続きが何ら実施されていない事実を認めることができ、これらの事実に照らせば、本件労働契約は、平成14年3月当時、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていたものと解するのが相当である。したがって、原告は、平成14年3月当時、被告に対し、育児休業法に基づく育児休業を請求し得る立場にあったものというべきである。
適用法規・条文
育児・介護休業法5条、
収録文献(出典)
労働判例890号18頁
その他特記事項