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C観光バス懲戒解雇事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
C観光バス懲戒解雇事件
事件番号
大阪地裁 − 昭和59年(ヨ)第4385号
当事者
その他申請人 個人1名

その他被申請人 C観光バス株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1986年02月20日
判決決定区分
却下
事件の概要
 被申請人は、観光バス事業を行う会社であり、申請人は被申請人に雇用される観光バス運転手である。

 申請人は、昭和59年8月29日からの2泊3日の旅行に、スチュワーデスAと共に従事した。初日ホテルに到着した後、停車中のバス車内において、Aは申請人から胸部及び臀部の真ん中あたりを手の平で触られた。また同日夜、ホテルのスナックにおいて、申請人とAが並んで食事していた際、Aは申請人から突然Tシャツをブラジャーが見える位までめくり上げられ、胸を触られ、スカートをめくられたりし、その都度椅子から立ち上がって逃れた。更にエレベーターの中で、Aは申請人から胸を触られそうになり、両腕を組んで胸部を庇って座り込むようにして申請人を避けた。

 翌日、駐車中のバス車内において、Aは申請人から胸部を触られ、尻の間に手を突っ込まれるように触られた。更に同日夜、申請人の宿泊室においてAと申請人が向かい合って食事をしていたところ、申請人がAの背後に回り、Aが辞退するのを無視して肩を揉み始め、背後から右手をTシャツの襟元からブラジャーの下に差し入れて乳房に触ろうとしたので、Aは両手で申請人の手を押さえて抵抗し、大声を上げて助けを求めたが、申請人がなお離れようとしなかったので、手足を力一杯使って振りほどき、自室にかけ戻った。Aは申請人のこれまでの行為に耐え切れず、直ちに被申請人の事務所に電話をかけたところ、常務取締役らが駆けつけ、スチュワーデスを交代させた。
 被申請人は、申請人の一連の行為が就業規則に定める懲戒解雇事由に該当するとして、同年9月17日に口頭で、同月25日付け書面で、申請人を懲戒解雇に処する旨の意思表示をなした。これに対し申請人は、解雇事由は存在しないとして、被申請人の従業員としての地位保全と賃金の支払いを求めて仮処分申請をした。
主文
1 申請人の請求を却下する。
2 訴訟費用は申請人の負担とする。
判決要旨
 申請人のAに対する猥褻行為は2泊3日旅行の業務に出かけた旅先において、2日間にわたって車中を清掃していた際、夕食の際、あるいはエレベーターの中で行われており、その執拗さは常軌を逸しているともいえるものである。申請人側は右行為の異常性からかえってその行為をしたことを否定する根拠としているが、申請人はAが種々の猥褻行為について再三止めるように述べて拒否しているけれども、その真意は自己の行為を了承していると考え、Aの同意があれば自己の行為はあまり重大な行為ではないと考えていたことが伺われ、Aに対する猥褻行為が被申請人に発覚した後も、Aの供述を容易に変えられるものと考え、女子部の労働組合の委員長を通じてそのように働きかけようとしたことも伺われるのであり、そのような事情を考慮すると、行為の執拗性、異常性から直ちに事実の不存在を推認することもできないものというべきである。

 被申請人の就業規則によれば、懲戒の方法として、解雇、出勤停止、乗務停止、減給、譴責、戒告の6種が定められ、懲戒解雇事由として「コンパニオン又はスチュワーデスと風紀上の問題を起こしたとき又はその虞れのある行為があったとき」と規定されており、申請人のAに対する猥褻行為が同規定に該当することは明らかである。
 被申請人においては、スチュワーデスと乗務社員がペアとなって宿泊を伴う旅行業務に就くことが多く、したがって、乗務社員とスチュワーデスとの間に風紀問題が発生する虞が多いこと、又、対外的信用失墜を予防し、更にスチュワーデス採用を円滑に行うために、若い女性にとっても安全な職場であることを維持する必要があるなどの事情から、被申請人においては乗務社員とスチュワーデスとの合意による性関係が発生した場合、あるいは乗務社員のスチュワーデスに対する猥褻行為については厳しい方針をとっており、これまでそのような行為をした乗務社員に対しては任意退職してもらうか解雇してきたことが疎明される。申請人のAに対する猥褻行為が出来心による単純なものではなく、2日間にわたって執拗に行われたものであり、そのためAを業務交替せざるを得ないような状況に追い込んだことを考慮すると、被申請人が申請人に対し懲戒解雇した処分は相当であり、被申請人が懲戒権の裁量範囲を著しく逸脱したものとはいえず、権利の濫用とはいえないものであるから、右懲戒解雇は有効である。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例470号88頁
その他特記事項