判例データベース
熊本教会・幼稚園事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 熊本教会・幼稚園事件
- 事件番号
- 神戸地裁 − 平成13年(ワ)第336号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2003年10月07日
- 判決決定区分
- 一部認容、一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、基督教団に属する宗教法人である教会の唯一の主任担当教師(牧師)として教会の執務を総括し、教会の代表役員を務めるほか、教会と同一敷地内に開園されている幼稚園の理事長兼園長を務めている男性である。
一方原告は、平成9年12月に教団信徒となり、翌年3月大學を卒業後本件教会に就職し、被告の指導を受けて教会内での信徒の教育活動等に従事してきた女性である。
原告の着任早々に、被告は夜間原告と2人きりの車内でラブホテル街を通過して原告を不安に陥れたことを始めとして、2人だけの車内や電話で夫婦の性生活や牧師として知った相談者の性に関する相談事を露骨に聞かせ、原告との性関係を望んでいるかのような趣旨の発言をし、原告がさしている傘の中に入って腕を絡ませるように組み、口説くような言葉を吐きながら2人きりの車内で手や腕を触り、礼拝堂などで2人きりになった際に偶然を装いながら、肘で胸を触ったり、手を太股に当て、「僕は抱きたいと思った子しか雇わない」などと発言したりした。
これらの被告の行為により、原告は平成11年9月以降、体が動かない、胸が痛い、生理が止まらない等体調を崩し、更に頭痛、脱水症状等で入院することもあった。
原告は平成12年夏頃、被告に対し、年度一杯で退職する旨を申し出、平成13年2月、信徒や幼稚園職員の一部の支援を受けるなどして、幹事、幹事経験者、責任役員が参集する前で、退職原因は被告の陰湿なセクハラにあると告発し、2月9日に教会を退職した。
退職後、原告は親元に戻ったが、不眠、頭痛、食欲不振等を訴え、診療を受けることになったが、体が動かなくなったり、精神的に不安定になったりし、被告に似た体型の男性や、被告の車と同一車種の車を見ると恐怖を感じ、テレビ・ラジオ等で熊本に関する放送があると嫌なことを思い出し、両親の膝に乗ったり、母の布団に潜り込むなどの幼児帰り現象が見られた。これらにより、新たに得た職場での就労が不可能となり、休職を経て平成14年3月末で解雇されたことから、被告に対し、1100万円の損害賠償を請求した。 - 主文
- 判決要旨
- 被告は、原告の雇用者として、何よりも信仰上の教導者として、聖俗いずれの場面でも絶対的優位者としての地位・立場に立ち、22歳で神への献身を誓って遠く熊本まで赴任した原告が、被告の従属的地位、立場にあって忍従せざるを得なかったことを良いことに、2年以上にわたり頻繁に性的嫌がらせ行為を反復継続してきたもので、その地位の悪用、行為の内容からしても、倫理的な非難の枠を超え、社会通念上相当とされる範囲を逸脱しているといわざるを得ず、原告の性的自由ないし性的自己決定権、ひいては人格権を侵害して民事賠償法上違法性を有すると認めることができ、被告は民法第709条の不法行為の責任を負うといわねばならない。
被告は、原告と並行して他の女性にも原告に対するのと同種の言動をしたことがあるが、いずれも原告のような深刻な事態に至ってはいない。しかしそれは、回数が少なかったり、周囲に気を紛らす同僚等がいたり、信徒でなかったり、原告とは異なる状況にあったからと考えられる。大學を卒業した直後に単身で初めての地に赴き、教会の信徒兼被用者となって献身と勉学生活を続けようとした原告が、本来教導・庇護すべき牧師のセクハラ行為が原告の精神的均衡を蝕んできたかは容易に推認できる。教会を退職した後における原告の精神的症状のすべてを被告の加害行為に帰せしめることはできないまでも、本件加害行為が因果関係を肯認すべき重大な因子になっていることに変わりはないこと、3年間落ち度のなかった原告が、本件教会だけでなく新たな職場も喪失し、現在でも就労できないでいること等諸般の事情を考慮すれば、被告の不法行為によって被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては300万円をもって相当というべきであり、弁護士費用のうち被告の不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用は50万円と認める。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例860号89頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
神戸地裁 − 平成13年(ワ)第336号 | 一部認容、一部棄却(控訴) | 2003年10月07日 |
大阪高裁 − 平成15年(ネ)第3442号、大阪高裁 − 平成16年(ネ)第606号 | 一部認容・一部棄却 | 2005年04月22日 |