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大阪セクシュアルハラスメント(弁護士事務所)地位確認等請求事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
大阪セクシュアルハラスメント(弁護士事務所)地位確認等請求事件
事件番号
大阪地裁 − 平成10年(ワ)第2127号、大阪地裁 − 平成10年(ワ)第5961号
当事者
原告 個人1名
被告 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1999年03月03日
判決決定区分
請求一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
原告は、平成9年6月10日、法律事務所を開設して弁護士業務を行っていた被告との間で雇用契約を締結し(以下「本件雇用契約」という。なお、被告は試用期間を主張。)、同月23日から、法律事務所にて、秘書及び事務の業務を行った。

被告は、原告に対し、職場において、日常的に、手や腕や背中、肩、髪に触ったり、腰に手を回したり、昼食時女性に不快感を与える猥談を繰り返し、職務上の地位を利用してプライベートに付き合うことを強要した。

原告は、被告による度重なる性的嫌がらせについて、平成9年9月11日、大阪弁護士会に電話したところ、同弁護士会作成のセクハラカードを机に貼るようアドバイスを受け、同月12日、他の2名の事務員とともに、セクハラカードを各自の机のビニールテープに挟んだ。

原告が同月24日出勤すると、被告は原告に対し、3ヶ月の試用期間が終わるので今月でやめるよう告げ、原告が異議を述べると、原告に退職を強要し、また、原告を訴える等といって、脅迫した。被告は、同年10月22日、原告に対し同年11月24日をもって解雇する旨の解雇予告書を交付し、解雇の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。同年11月21日、被告は原告に対し11月分の給料とは別に退職金20万円を渡そうとしたが、原告が受領を拒否すると、原告が法的手段をとれば報復することをほのめかし、原告を脅迫した。

原告は、同年11月20日、大阪地裁に地位保全の仮処分を申立て、同年12月24日、被告に対し、地位保全及び賃金の仮払いを命ずる決定がなされた。

被告は、出勤しないならば任意退職とみなす、旨の書面を原告に送付し、原告はこれを受けて法律事務所に出勤したところ、被告は原告を罵倒、告訴すると脅迫するなどした。

これに対し、原告は、地位確認(平成9年6月23日から同10年12月4日まで)、未払賃金、不法行為による損害賠償として慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の支払いを求め、被告を提訴した。
これに対し、被告が廃業に追い込まれたのは原告の行為によること等を主張して、被告は原告に対し1500万円を求める反訴を提起した。
主文
一 原告の訴えのうち、被告に対し、平成9年6月23日から平成10年12月4日までの間労働契約上の権利を有する地位にあったことの確認を求める部分を却下する。
二 被告は、原告に対し、593万円及びうち177万円に対する平成10年4月18日から、うち416万円に対する同年11月25日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 被告の反訴請求を棄却する。
五 訴訟費用は、本訴反訴を通じ全部被告の負担とする。
六 この判決は、第2項に限り仮に執行することができる。
判決要旨
本件解雇は、原告が被告の性的嫌がらせに対する抗議の意思を示すためセクハラカードを机に貼ったことに対する報復として行われたことが明らかであり、他に原告に解雇理由となるような事実は認められないから、本件解雇は、解雇権を濫用するものであって、無効というべきである。被告が原告の採用に当たり、試用期間の存在について告知したものかどうかは疑わしい。また、そもそも、試用期間中の留保解約権の行使であっても、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認することのできる場合に限り許されると解すべきところ、本件解雇は性的嫌がらせへの抗議に対する報復としてされたもので、何ら客観的に合理的な理由に基づくものであるとは認められないから、いずれにしても、被告の主張は理由がない。本件解雇は無効であるから、被告は、原告に対し、平成9年12月分から平成10年11月分までの未払賃金の支払義務がある。そして、原告は、月額26万円の給与及び年2回各2ヶ月分の賞与の支給を受ける権利を有することが認められるから、右期間内の未払い賃金は、416万円となる(賞与は、6月と12月に支給されるものとして計算する。)。また、被告が原告の給与から控除した7万円は、被告が一方的に労務の受領を拒絶して賃金を支払わないというものであって、何ら正当な控除理由がないから、被告は、原告に対し、右7万円の支払義務がある。被告は、原告に対し、職場において、日常的に身体に触れたり、食事への同伴を要求したり、また、猥談をしたりしたのであって、個人事務所の雇用主と従業員であるという両者の関係、日常的に行われていたその頻度等に鑑みると、その程度は原告の人格権を侵害する程度に至っていたというべきであり、右行為は、性的嫌がらせ(いわゆるセクシュアルハラスメント)として、原告に対する不法行為を構成するというべきである。被告が、原告に対し、試用期間終了を理由に解雇を告げ、次いで、本件解雇に及んだうえ、その後原告に出勤を命じながら賃金を全く支払わず、泥棒呼ばわりするなどの行為を継続した行為は、明らかに常軌を逸したもので、原告に対する不法行為を構成するというべきである。被告は、弁護士という職業にありながら、前記のとおり性的嫌がらせを繰り返したうえ、その後も原告に対する常軌を逸した嫌がらせを継続し、特に、出勤を命じながら賃金を全く支払わないなど、その行為は悪質であって、これら被告の不法行為によって原告が受けた精神的苦痛は大きなものであったと認められる。そして、右精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、150万円が相当であり、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、20万円であると認められる。
適用法規・条文
02:民法709条
収録文献(出典)
なし。
その他特記事項
なし。