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K社異動命令無効確認等請求事件

事件の分類
配置転換
事件名
K社異動命令無効確認等請求事件
事件番号
東京地裁 − 昭和63年(ワ)第6997号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社K
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1993年09月28日
判決決定区分
請求棄却(原告敗訴)
事件の概要
原告は、昭和50年に被告である株式会社Kに雇用された女性である。昭和60年から原告は、目黒区内の事務所において、庶務の仕事に従事していたが、昭和63年1月、八王子事業所の製造ライン勤務に異動を命ぜられた。

原告は当時3歳の男児を保育園に預けながら勤務していて、異動すると通勤時間は1時間40分以上となり、勤務を継続できなくなる、として、異動命令を拒否して出勤しなかったところ、停職処分となり、その後も欠勤に準じる行為が68日にも及んだ、として、懲戒解雇処分となった。(その際、会社は2回、出勤するよう警告した、と主張した。)
そこで、原告は被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、八王子事業所に勤務する義務のないことの確認、停職処分の無効確認、昭和63年4月から平成5年夏期分までの賃金等を求めて、提訴した。
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
保育状況に変化がなく、現住居から通勤するという限りにおいては、保育ができないこととなる。この限りにおいて、原告の主張にも首肯し得る点がないではないが、右の保育のできない時間帯につき、経済的負担を度外視するならば、さらに、第三者に依頼することが可能であったのではないかとの疑問があるし、後期認定のとおり、被告は、原告との間で、通勤時間及び保育問題等につき十分話し合ってできる限りの配慮をしようと考えていたというのであるから、いかなる場合にも現住居からの通勤が不可能であったなどということはできない。原告が八王子事業所近辺に転居をすれば原告の主張する保育問題等は容易に解決することができたといえる。

原告は、転居のできない理由とし、現在の生活状況を変えることは非常な不利益を伴うからである等と主張及び供述するが、なるほど、転居に伴って多少の不利益の伴うことは否定し得ないが、原告の主張及び供述することは転居のできない客観的障害事由ということはできないし、転居先住居の点においても、また、保育園の転園の点においても容易に確保できたというのであるから、被告の従業員であるという立場からすれば、転居という方法によって本件異動命令に協力すべきであったといえる。(1990年改正前)雇用機会均等法28条1項は、女子を雇用している事業主は、女子従業員が育児のために退職しなくてもすむように、育児休業その他の育児に関する便宜の供与をなすよう努めなければならないことを定めているから、被告においても、同条項の趣旨に従い、原告に対し、原告の長男の保育につき、保育園等に預ける場合の勤務時間について配慮しなければならない。

しかし、原告は、本件異動命令に従って八王子事業所において就労していたというなら格別、本件異動命令自体を拒否していたのであるから、同条項の適用される場面とはならず、同条項違背の問題とはならない。右認定したところによると、当初5名の人員体制で生産を開始したものの、生産開始の間もなくのころから需要が飛躍的に増大したため、生産計画の変更及び増員計画の変更とを昭和62年5月と同年8月とにせざるを得ず、同年11月ころから同63年11月ころにかけて10名体制とすることが必要不可欠であったというのである。しかし、このための要員配置が容易でなかったというのであり、しかも、折角配置することのできた2名が同62年12月末ころまでに退職する旨の意思を表示したというのである。この2名の補充は、増員の必要性以上に必要不可欠であったといえる。

したがって、プロジェクトチームに人員を増員すること、退職者2名の補充をすることの必要性は極めて大きかったといえる。右認定したところによると、被告がプロジェクトチームの補充要員2名の選定基準とした製造現場経験者及び年令40歳未満の者ということは、作業内容の点からみて、それ自体に不合理なところはない。

原告の主張する製造経験のない派遣社員については、配置後18日後に退職してしまっており、証人の証言によれば、右退職理由は製造経験のなかったことによるのではないかとのことであるが、この真実の理由については本件全証拠によるも明らかではないものの、派遣社員の右配置をもって、原告の主張するように製造現場経験者との基準がまやかしであるということはできないし、また、補充要員が担当することとなっていた作業内容は、前記認定したとおり7工程であって、誰でもができる作業であるということはできず、一般的に製造経験を有する者の方がこれを有しないものより戦力となることは経験則上明らかである。次に、原告は、右補充要員として原告を選定した過程自体不合理である旨主張するが、被告の人事部担当者は、異動可能者のなかから右選定基準に従い選定作業をしたところ、原告しか該当者がいなかったというのであるから、この点に不合理なところはなく、また、他にこの不合理な点を認めるに足りる証拠もない。

したがって、この点に関する原告の主張も理由がない。原告は、本件人事異動命令は、室長が原告を退職させるための嫌がらせないし報復人事の一環としてなした旨主張し、原告もこれに沿い、具体的に勤怠届出表の件等数項目に亘り供述をし、本件異動命令は、原告が室長の陰湿な苛めにもめげずに勤務していたので、最後の手段としてなされた旨供述している。

しかし、前記認定したところによれば、本件人事異動の対象者の選定は、人事部長の命により人事部において作業をし、同部長において決定したというのであり、しかも、室長は、本件人事異動に係わる立場になかったのであるから、原告の右供述は、証拠と対比したとき、原告の単なる主観的感情ないし憶測・誤解に基づいた見解を述べているにすぎないから、にわかには信用できない。右認定したところによると、原告は、本件停職処分期間満了後も被告の二度に亘る出勤命令及びこれを無視した場合の懲戒処分の警告にもかかわらず、これを無視して出勤しなかったというのであり、原告のこの欠勤には正当な理由のないことは前述したところから明らかである。

そうすると、原告の右行為は、前記懲戒規定16条2号、12号に該当し、他に本件懲戒解雇処分が懲戒権を濫用してなされたことを認めるに足りる証拠もない。
したがって、本件懲戒解雇処分は有効であり、原告のこの点に関する主張も理由がない。
適用法規・条文
99:なし
収録文献(出典)
判例時報1476号153頁、労働判例635号11頁、判例タイムズ831号269頁、労働経済判例速報1509号3頁
その他特記事項
男女雇用機会均等法28条(1項)は削除されたが、育児・介護休業法20条1項に、事業主は1歳から小学校就学の始期までの子を養育する労働者等に必要な措置をとるよう、規定がある。本件は控訴された(No.90)。