判例データベース

T社労働契約関係存在確認等請求控訴事件

事件の分類
雇止め
事件名
T社労働契約関係存在確認等請求控訴事件
事件番号
東京高裁 − 昭和45年(ネ)第2412号
当事者
控訴人 T株式会社
被控訴人 個人1名
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1973年09月27日
判決決定区分
控訴棄却(控訴人敗訴)
事件の概要
控訴人会社は、電気機械器具製造等を目的とする資本金719億660万1,650円の会社である。
被控訴人は中卒後の昭和36年3月28日控訴人のトランジスター工場の臨時従業員となった。同人は、雇用期間を2ヶ月とする臨時従業員として採用され、以後2ヶ月ごとに契約を更新してきた。昭和41年11月24日、控訴人会社の登用制度改訂により登用試験が1回となり不合格の者は退職して貰うことになったところ被控訴人は不合格であったから、昭和42年6月末日限りで退職して貰いたい項の申入れ(以下「本件申入れ」という。)を受けた。41年11月28日、控訴人・被控訴人間で労働契約を締結した。右契約により、控訴人は被控訴人に対し、42年7月1日以降は就労を拒否し、賃金の支払をしていない。

これに対し、被控訴人は、本件労働契約は期間の定めのない雇用契約であった等と主張して、従業員の地位を有すること等を求めて、提訴した。

原審では、被控訴人は、控訴人の従業員としての地位を有すること及び昭和42年7月1日以降被控訴人の就労を認めるまで1ヶ月32,329円の割合の金員の支払いが認められ、被控訴人は一部勝訴した。
本件は、原審に対し、会社が控訴したものである。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
判決要旨
被控訴人は、前記工場における基幹臨時工として、工場生産を支える労働力の主たるにない手の一員に組み込まれていたことが明らかである。そうしてかような諸事実に、被控訴人が昭和41年11月24日被控訴人に対し本件の申入れをするに至るまで契約面上は反復継続して2ヶ月ごとに契約を更新しながら約5年9ヶ月を経過していることの明らかな事実をあわせれば、控訴会社において生産規模の著しい縮少等の特段の事情の生じない限り被控訴人を継続して雇用する意思があり、その意思のもとに右のように長期にわたり被控訴人の雇用を継続したものと認めるのが相当であり、被控訴人においても継続雇用を希望しその意思で就労していたことが明らかである。そして、前記のように控訴人において被控訴人から前記短期の労働契約書を差し入れさせたのは、右のような特段の事情の生じた場合に臨時従業員である被控訴人に対し解雇の途に出る措置を確保するためのものであるというべく(このような特別な事由は正規従業員に対する解雇事由としても妥当するであろう)これら諸般の事実にかんがみるときは、臨時従業員はその採用にあたり正規従業員に対する選考に比して簡易に行われるが、一定期間経過後には、正規従業員への登用の途を開いている点で、少なくともその期間の当初においては雇用の臨時性、暫定性をもつと同時に、長期の雇用に耐えるべき従業員たるの適性を判別するための試用の意味をも帯有するものというべきではあるが、少なくとも当初の期間が逐次更新され、従業員としての適性を判別しうるための一定期間、本件では正規従業員への登用資格を取得する一年の期間を経過したことには右当事者間において、労働契約の形式面はともかくとして、期間の定めのない雇用契約が成立したものであると認めるのが相当である。労働契約書中、雇用期間の末日である昭和46年6月30日を超えて新たに労働契約を締結することはない旨の条項についての被控訴人の意思表示に関する部分は、その表示された意味は前認定の期間の定めのない雇用契約において、これを期間の定めのある雇用契約に変更し、あるいは昭和46年6月30日限り合意解約するものと解されるけれども、右意思表示は表意者である被控訴人においてその真意でないことを知ってした意思表示であることが明らかであり、かつ前記のような事情に照らせば右意思表示を受けた組長および勤労課長において、たとえ明確に被控訴人の真意を知らなかったとしても、控訴会社の意図を実現する直接の担当者であるという自己の立場にあって右事態を見れば、会社側の右意図がそのまま被控訴人に容認されたものでなく、被控訴人の真意は別にあることの消息は容易に知ることができたはずであるといわなければならない。そうして、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、少なくとも勤労課長を代理人として被控訴人に対し折衝し、被控訴人から右意思表示を受領したと認めることができるから、控訴人は、少なくとも民法第93条但書にいう「表意者の真意を知ることを得べかりしとき」に該当し、右労働契約書中、控訴人の意思表示に関する部分は無効のものといわなければならない。控訴人、被控訴人において、右申入れのあるまでに、期間の定めのない雇用契約が成立したと認めるべきことは、前記において認定したとおりであるところ、右申入れは、被控訴人において、控訴人が登用対象としない臨時従業員であり、その処遇は、過渡的措置であることを理由とするものであることがうかがえる。そうして、臨時従業員就業規則が被控訴人につき適用のあることが明らかなところ(但し後記の点を除く)、右理由は、就業規則所定(第8条)の解雇事由のいずれにも該当しない(「契約期間が終了したとき」をもって被控訴人に対する解雇事由とすることのできないことは、被控訴人との雇用契約が前記説示のとおり期間の定めのない雇用契約であることに照らして明白である。すなわち右規則は期間の点に関する限りは本件のように期間の定めのないものとなった臨時従業員には適用の余地がないものというべきである)のみならず、その他に控訴人において被控訴人が右規則に定めるいずれかの解雇事由に該当することはその主張しないところである。被控訴人が控訴人の行った登用の選考に合格しなかったとしても、そのことは控訴会社の欲する正規従業員たるの適格がないと判定されたというだけであって、前記の時期にいたって被控訴人が従前どおりの従業員たるの適格すらもないことを意味するものでないことはいうまでもない。また前記改訂登用制度における「業務上支障がないと認められる場合」に当たらないことについても控訴人から主張立証がないところである。従って右解雇については相当な事由があるものとすることができないから、結局控訴人の被控訴人に対する右申入れをもってした解雇の意思表示は、権利の濫用として無効のものといわなければならない。
適用法規・条文
99:なし
収録文献(出典)
判例時報723号94頁、
労働判例187号23頁、
金子征史・労働判例187号18頁
その他特記事項
地裁判決(No.57)参照。
顛末317川崎支部S42−(ワ)320
請求一部認容(原告一部勝訴)昭和45年9月22日