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(財)H研究所地位確認等請求上告事件

事件の分類
退職・定年制(男女間格差)
事件名
(財)H研究所地位確認等請求上告事件
事件番号
最高裁 − 昭和62年(オ)第1116号
当事者
上告人 財団法人H研究所
被上告人 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1990年05月28日
判決決定区分
上告棄却(上告人敗訴)
事件の概要
定年を男子62歳、女子57歳と定めた就業規則の適用を受け、退職を言い渡された女子労働者Aが、女子職員の定年を男子より低く定めた部分は無効であると主張し、提訴した。広島地裁は、女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は性別のみによる不合理な差別であり、民法90条により無効とする判決を出した。(財)H研究所はこれを不服として広島高裁に控訴したが、その後59年3月、労組との間で、定年年齢は男女とも経過措置を設けて満60歳とする旨の定年並びに退職金に関する労使協定を締結し、就業規則において、満60歳を定年と規定すると同時に、経過措置として「定年を、男子については最初の6年間は満62歳とし、以後3年ごとに6ヶ月ずつ段階的に引下げ、昭和72年1月から満60歳とする。女子については、当初現行定年年齢満57歳を満59歳とし、以後1年毎に6ヶ月ずつ延長し、昭和63年1月から満60歳とする。」旨規定した。女子労働者Aに対しては、新規定の経過措置を準用し、58年1月1日以降59年12月31日まで、職員としての身分を有するものとして処遇した。これに対しAは、新規定は、経過措置も含めて男女の定年に差別があり、女子に不利である部分は憲法、男女雇用機会均等法及び民法90条に違反し無効であると主張した。控訴審は、

(1)旧規定中、女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、無効である。
(2)新規定は、男女職員の定年を60歳とするものであり、従前の差別定年制を解消し、定年年齢について完全な男女の平等を実現しているものであるから、定年年齢の定め方そのものに違法の点はない。
(3)経過措置について、男子に対して60歳定年を段階的に実施しようとしたのは、男子の既得権の保護を目的としたものであるから、それ自体は十分合理性を有するものと評価することができるものの、女子に関して60歳定年の実施時期を遷延する規定を設けたことは、なんら合理性を認め難いばかりか、(1)により旧規定下の女子の定年年齢が結果的に男子と同じ62歳となるものとすれば、その既得権が保護されるべきことは男子の場合と異なるところはないので、女子に関する部分は、女子についての不合理な差別であり、民法90条により無効であるとする判決を出した。
(財)H研究所はこれを不服として、昭和62年8月12日、最高裁に上告した。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
判決要旨
原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。
適用法規・条文
03:民事訴訟法401条,03:民事訴訟法95条,03:民事訴訟法98条
収録文献(出典)
労働経済判例速報1394号3頁、
労働法律旬報1248号30頁、
中嶋士元也・労働経済判例速報1424号16頁
その他特記事項
なし。